24 1月 2026, 土

AI投資の潮流は「ビッグテック」から「エネルギー」へ—ブラックロックが予測する2026年のAI市場と、日本企業が直視すべきインフラの課題

世界最大の資産運用会社ブラックロックは、2026年のAI投資の主戦場がビッグテックからエネルギープロバイダーへとシフトすると予測しました。この動きは単なる株式市場のトレンドにとどまらず、AI開発・運用における「物理的なボトルネック」が顕在化していることを示唆しています。電力不足やデータセンターの制約が、今後のAI活用戦略にどう影響するのか、日本企業の視点で解説します。

AIブームの「第2フェーズ」はインフラとエネルギーが鍵

世界最大の資産運用会社であるブラックロック(BlackRock)が示した最新の見解は、AI業界が新たな局面に入ったことを明確に告げています。これまでのAI投資は、GoogleやMicrosoftといったハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)や、NVIDIAのようなチップメーカーが中心でした。しかし、2026年に向けて投資家の関心は、それらの技術を物理的に支える「エネルギープロバイダー」や「インフラ事業者」へと移りつつあります。

このシフトの背景には、生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)の運用に伴う消費電力の爆発的な増加があります。高性能なGPUクラスターを稼働させ、冷却し続けるためには、都市レベルの電力供給が必要です。つまり、ソフトウェアや半導体の進化スピードに対し、電力網やデータセンター建設という「物理レイヤー」の供給が追いついていないのが現状です。

日本企業にとっての「電力」というリスク要因

この世界的なトレンドは、日本のビジネスパーソンにとっても対岸の火事ではありません。日本はエネルギー資源の多くを輸入に依存しており、産業用電力コストは国際的に見ても高水準です。AI活用が実証実験(PoC)から本格導入フェーズへ移行するにつれ、推論(Inference)コストにおける「電力代」の比重は無視できないものとなります。

また、日本国内では「AI主権(Sovereign AI)」の観点から、国内データセンターでのデータ処理を求める動きが強まっています。金融機関や行政、重要インフラ企業においては、ガバナンスやコンプライアンスの観点から、海外リージョンではなく国内リージョンの利用が必須となるケースが多いでしょう。しかし、国内の電力供給能力やデータセンター用地には限界があります。今後、計算リソースの奪い合いにより、利用料の高止まりや、希望するタイミングでのGPU確保が困難になるリスクも想定されます。

「何でもLLM」からの脱却と効率化の重要性

エネルギー制約が現実味を帯びる中で、エンジニアやプロダクト担当者に求められるのは、「計算資源の効率的な利用」です。これまでは「精度」が最優先され、とにかく巨大なモデルを使うことが良しとされる傾向にありました。しかし、これからはタスクに応じて適切なサイズモデルを使い分ける戦略が不可欠です。

例えば、社内ドキュメントの検索や要約といった特定のタスクであれば、パラメータ数の少ない軽量モデル(SLM: Small Language Models)や、蒸留(Distillation)されたモデルで十分な精度が出せる場合があります。また、エッジデバイス(PCやスマホ端末内)で処理を完結させるオンデバイスAIの活用も、クラウド側の電力負荷とコストを下げる有効な手段です。

日本企業のAI活用への示唆

ブラックロックの予測は、AIが「魔法」ではなく、大量のエネルギーを消費する「工業製品」であることを再認識させます。今後の実務において、意思決定者は以下のポイントを考慮すべきです。

  • コスト構造の再評価:AIサービスの利用料には、将来的にエネルギーコストの上昇が転嫁される可能性があります。長期的なROI(投資対効果)を試算する際は、API利用料やインフラコストの上昇リスクを織り込む必要があります。
  • モデル選定の最適化:「大は小を兼ねる」の発想を捨て、用途に合わせた適正なモデルサイズを選定すること(Right Sizing)。これはコスト削減だけでなく、レスポンス速度の向上(UX改善)や環境負荷低減(GX対応)にも繋がります。
  • 国内インフラの確保状況を確認:自社が依存するクラウドベンダーが、日本国内で十分な電力とデータセンター容量を確保できているかを確認することは、BCP(事業継続計画)の観点からも重要です。
  • エネルギー効率をKPIに:MLOps(機械学習基盤の運用)において、モデルの精度だけでなく、推論ごとの消費電力やCO2排出量をモニタリング指標に加えることが、企業の社会的責任(CSR)としても今後スタンダードになっていくでしょう。

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