Googleがディズニーからの警告書(Cease and Desist Letter)を受け、自社のAIツールで生成されたミッキーマウスやスター・ウォーズ等のキャラクター動画を削除しました。この事例は、生成AIの業務活用が進む日本企業にとっても、著作権侵害リスクとガバナンス体制の再考を促す重要な教訓となります。
事例の概要:プラットフォーマーへの法的圧力
米エンターテインメント業界誌Varietyによると、Googleはディズニーからの「Cease and Desist Letter(侵害行為の停止を求める警告書)」を受け取った後、同社のAIツールを使用して作成された動画の一部を削除しました。削除された動画には、ミッキーマウス、デッドプール、スター・ウォーズ、シンプソンズといった、ディズニーが権利を保有する著名なキャラクターが含まれていたと報じられています。
これは、ユーザーがGoogleの動画生成AI(具体的なツール名は記事中で明記されていませんが、文脈からGoogleの最新モデルであるVeoや関連サービスと推察されます)を利用し、意図的に、あるいは偶発的に既存のキャラクターを生成・公開したことに対する措置です。プラットフォーマーであるGoogleが、権利者からの申し立てに対して迅速にコンテンツ削除に応じた点は、今後のAIサービス運営における一つの基準となる可能性があります。
生成AIにおける「類似性」と「依拠性」の問題
今回の件は、生成AIモデルが学習データに含まれる著名なキャラクターの特徴を強く保持しており、プロンプト(指示文)次第でそれらを容易に出力できてしまう技術的な現状を示しています。著作権侵害の成立には、一般的に既存の著作物との「類似性」と、その著作物に触れて作成したという「依拠性」が要件となります。
生成AIの場合、学習データに著作物が含まれている時点で「依拠性」が問われる可能性があり、出力結果がオリジナルと酷似していれば「類似性」も認められます。特にディズニーのような強力なIP(知的財産)ホルダーは、ブランドイメージの毀損や権利侵害に対して非常に厳格な姿勢を取ることで知られており、AI生成物であっても容赦なく法的措置を講じることが示されました。
日本企業における法的解釈とリスク
日本国内において、生成AIと著作権の関係はしばしば議論の的となります。日本の著作権法第30条の4は、AIの「学習(開発)」段階において、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用できるとしており、これは世界的に見てもAI開発に有利な規定です。しかし、これを「AIで何を作っても良い」と誤解することは危険です。
「生成・利用(出力)」の段階においては、通常の著作権法が適用されます。つまり、日本企業であっても、AIを使って既存のキャラクターや他社の製品デザインに酷似したコンテンツを生成し、それを広告や製品、SNSなどで公開すれば、著作権侵害として法的責任を問われるリスクがあります。今回のGoogleの事例は、米国法下での出来事ですが、グローバルに展開する日本企業や、国内市場のみを対象とする企業であっても、他者の権利を侵害するリスクは同様に存在します。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、日本企業がAI活用を進める上で考慮すべき実務的なポイントは以下の通りです。
1. 利用ガイドラインの策定と周知
従業員に対し、生成AIツールを用いて既存のキャラクター、タレント、他社商標などに類似したコンテンツを生成・使用しないよう、明確なガイドラインを策定する必要があります。「AIが作ったから大丈夫」という認識を払拭し、出力物のチェック体制(Human-in-the-loop)を構築することが重要です。
2. ツールの選定とガードレール機能の確認
企業導入するAIツールを選定する際、ベンダー側でどのような「ガードレール(不適切な出力を防ぐ安全装置)」が実装されているかを確認すべきです。特定の有名キャラクターや暴力的表現が出力されないようフィルタリングされているツールや、著作権侵害時の補償(Indemnification)が含まれるエンタープライズ版の契約を検討することが推奨されます。
3. 自社IPの保護戦略
逆に、自社がキャラクターや強力なブランドを持っている場合、それらが他社のAIによって生成・悪用されていないかモニタリングする必要があります。今回のディズニーのように、侵害を発見した場合はプラットフォーマーに対して削除申請や警告を行うフローを法務部門と連携して整備しておくことが求められます。
