23 1月 2026, 金

「ChatGPTに投資相談」の事例から学ぶ、生成AIの情報の鮮度とハルシネーション問題

英国のYahoo Financeの記事によると、ChatGPTが個人貯蓄口座(ISA)向けの投資助言として、すでに古くなった配当利回りデータに基づいた銘柄推奨を行った事例が報告されています。生成AIが持つ「知識のカットオフ(学習データの期限)」と「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」の問題は、金融業界に限らず、リアルタイム性が求められるあらゆるビジネス領域において重大なリスク要因となります。本稿では、この事例を端緒に、日本企業が生成AIを実務に組み込む際に留意すべきデータの正確性担保とガバナンスについて解説します。

静的な学習データと動的な現実世界のギャップ

今回取り上げられた事例では、ChatGPTが英国の個人貯蓄口座(ISA:日本のNISAに近い制度)向けの投資先として、資産運用会社M&Gを推奨しました。その際、提示された配当利回りは「7.8%」でしたが、これは古いデータに基づくものであり、現在の市場価格とは乖離していました。

大規模言語モデル(LLM)は、インターネット上の膨大なテキストデータを学習して構築されますが、その知識は「学習を終えた時点(カットオフ)」で凍結されます。例えば、GPT-4などの最新モデルであっても、直近の株価、為替レート、法改正、あるいは自社の最新の在庫状況といった「動的な情報」を、モデル内部の知識として持っているわけではありません。

問題の本質は、LLMが「現在の情報を知らない」ことではなく、過去の学習データに基づいて「あたかも現在の事実であるかのように自信を持って回答を作成してしまう」点にあります。これを実務で放置すれば、誤った意思決定や顧客への誤案内につながるリスクがあります。

日本企業における法的リスクと「信用の毀損」

この問題は、日本のビジネス環境において特に慎重な対応が求められます。特に金融商品取引法(金商法)などの規制産業においては、AIによる不正確な情報の提供が、無登録の投資助言や不当表示とみなされるリスクを孕んでいます。

また、法的な観点だけでなく、日本の商習慣においては「情報の正確性」に対する要求レベルが極めて高いという特徴があります。欧米のテック企業が「Beta版」として許容するようなエラーであっても、日本の顧客サービスにおいては「重大な欠陥」とみなされ、長年築き上げたブランドの信用を一瞬で失墜させる可能性があります。

例えば、自社のカスタマーサポートチャットボットが、すでに終了したキャンペーンを案内したり、改定前の古い利用規約に基づいて回答したりするケースを想像してください。これは単なる技術的なエラーではなく、企業のガバナンス欠如として問われる問題です。

実務的な解決策:RAGとグラウンディング

では、企業はこのリスクにどう対処すべきでしょうか。最も標準的かつ効果的なアプローチは、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の導入です。

RAGとは、LLMが回答を生成する前に、信頼できる外部のデータベース(最新のニュース、自社のマニュアル、API経由の株価情報など)を検索し、その検索結果を根拠(コンテキスト)として回答を生成させる技術です。これにより、LLMの流暢な言語能力を活かしつつ、回答の内容を「最新かつ正確な情報」にグラウンディング(根拠付け)することが可能になります。

今回の事例であれば、ChatGPT単体で回答させるのではなく、金融情報プロバイダーのAPIから「現在の株価と配当」を取得し、その数値を踏まえて解説文を生成させる仕組みが必要でした。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例から、日本企業がAI活用を進める上で得られる教訓は以下の通りです。

  • 「学習済み知識」に依存しない設計:変化の激しい情報(市場データ、法律、社内規定など)については、LLMの記憶に頼らず、必ず外部の信頼できる最新データソースを参照(RAG)させるアーキテクチャを採用する。
  • 出典の明示と免責:AIが生成した回答には、参照したデータソースのリンクを表示し、ユーザー自身が一次情報を確認できるUI/UXを設計する。また、金融や医療などのセンシティブな領域では、「AIによる回答であり、専門家の助言に代わるものではない」旨の免責を明確にする。
  • ドメイン特化の評価プロセス:汎用的なベンチマークだけでなく、自社のビジネスドメインに特化した「誤答リスク」を評価するテストセットを作成し、本番展開前に十分な検証(Red Teamingなど)を行う。
  • Human-in-the-Loop(人間による介在):完全に自動化するのではなく、最終的な意思決定や重要な顧客対応には人間が介在するプロセスを残し、AIはあくまで「判断支援」や「下書き作成」の役割に留める段階的導入を検討する。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です