韓国のIT大手Naverが、米中の巨大テック企業に対抗する「各国に最適化されたAI」の構築支援を打ち出しました。これは、国家や地域が自らのデータと技術基盤をコントロールする「ソブリンAI(主権AI)」の潮流を象徴する動きです。生成AIの導入が進む中、日本企業が直面する「データ主権」と「ローカライズ」の課題について、グローバルな動向と実務的な視点から解説します。
米中テックジャイアントへの対抗軸
Financial Timesの報道によると、「韓国のGoogle」とも称されるNaverは、米国や中国の巨大テック企業に代わる選択肢として、各国独自のAIサービス構築を支援する戦略を掲げています。彼らの主張の核となるのは、導入国が「自国のデータをコントロールし続けられる」という点です。
現在、生成AI市場はOpenAI(Microsoft)やGoogleといった米国企業が圧倒的なシェアを占めています。しかし、これには懸念もあります。国家の安全保障に関わるデータや、企業の機密情報が他国のプラットフォームに依存することへのリスク、いわゆる「デジタル主権」の問題です。Naverの動きは、こうした懸念を持つ国々や企業に対し、米中以外の「第3の選択肢」を提示しようとするものです。
なぜ「ローカル特化型」が必要なのか
日本企業がAIを活用する際、汎用的なグローバルモデル(GPT-4など)だけでは解決しきれない課題が主に2点あります。
一つ目は「データガバナンスとコンプライアンス」です。欧州のGDPR(一般データ保護規則)や日本の個人情報保護法、さらには経済安全保障推進法などの規制環境下において、機密性の高いデータを国外のサーバーで処理することには慎重な判断が求められます。特に金融、医療、公共インフラなどの領域では、データが国内(あるいは自社管理下)に留まることが必須条件となるケースが少なくありません。
二つ目は「言語と商習慣の壁」です。英語圏のデータで学習されたモデルは極めて高性能ですが、日本語特有のハイコンテクストな表現、敬語の使い分け、あるいは日本の複雑な行政手続きや商慣習に関する知識においては、不正確な回答をすることがあります。日本独自の文化や文脈を深く理解した「ローカル特化型」のモデルが必要とされるのはこのためです。
マルチモデル戦略とコストのバランス
もちろん、自前でLLM(大規模言語モデル)を構築したり、ローカル特化型のモデルを採用したりすることには課題もあります。最大の課題はコストと精度のバランスです。米国のテックジャイアントが数兆円規模で投資して開発する最先端モデルに対し、ローカルモデルが汎用的な推論能力で対抗するのは容易ではありません。
したがって、実務においては「適材適所」のアプローチが重要になります。アイデア出しや一般的なコーディング支援には米国のハイエンドモデルを利用し、顧客の個人情報や社内規定に基づく判断業務には、国内ベンダーのモデルや、自社環境で動作する軽量なオープンソースモデル(SLM:小規模言語モデル)を採用するといった「マルチモデル戦略」です。
Naverの提案は、こうした「自国の事情に合わせたAIを持ちたい」というニーズに応えるものであり、日本国内でもNTTやソフトバンク、NECなどが同様に国産LLMの開発・提供を急ピッチで進めています。
日本企業のAI活用への示唆
今回のニュースは、AI選定において「性能」だけでなく「主権」と「適合性」が重要な評価軸になりつつあることを示しています。日本企業の意思決定者や実務担当者は、以下の点を考慮すべきです。
1. データの格付けとモデルの使い分け
すべての業務に同じAIモデルを使う必要はありません。データを「公開情報」「社内情報」「極秘情報」に分類し、機密性が高いデータほど、データ主権が確保された(国内サーバーや自社管理下にある)AIモデルで処理するアーキテクチャを設計してください。
2. 特定ベンダーへのロックイン回避
米国の特定ベンダーに依存しすぎると、価格改定やサービス方針の変更、あるいは地政学的なリスクの影響を直接受けることになります。APIの互換性を意識した開発(MLOps)や、複数のモデルを切り替えられるオーケストレーション層の導入を検討し、リスクを分散させることが賢明です。
3. 日本固有の文脈への対応検証
海外製モデルを採用する場合でも、日本の商習慣や法的要件に合致しているか、PoC(概念実証)段階で厳密に検証する必要があります。特にコンプライアンスに関わる出力については、RAG(検索拡張生成:社内ドキュメントを検索して回答させる技術)などを組み合わせ、回答の根拠を日本国内の正確な情報ソースに紐付ける工夫が不可欠です。
