23 1月 2026, 金

ディープフェイク規制の国際的潮流と企業防衛:米英要人の発言に見るAIリスク管理の新常識

AI技術の進化に伴い、ディープフェイクによる被害が深刻な社会問題となっています。AI推進派とされる米国の重要人物が悪質なディープフェイクに対して「完全に容認できない」という姿勢を示したことは、今後の規制強化を示唆する重要なシグナルです。本稿では、この国際的な動向を踏まえ、日本企業が直面するAIリスクと、実務レベルで講じるべきガバナンス対策について解説します。

政治主導で加速するディープフェイク規制の潮流

生成AIの急速な普及は業務効率化やイノベーションを加速させる一方で、ディープフェイク(AIを用いて生成された偽の画像・音声・動画)によるリスクを増大させています。特に個人の尊厳を傷つける性的なディープフェイクや、政治的な偽情報の拡散は、主要国にとって喫緊の課題です。

最新の報道によれば、AI技術の積極的な活用を支持する立場にある米国のJDバンス氏でさえ、英国外相との対話の中で、性的なディープフェイクを「完全に容認できない(entirely unacceptable)」ものであるとし、規制の必要性に理解を示したとされています。これは、AI技術そのものの推進と、その悪用に対する厳格な規制は両立し得るという、政治的なコンセンサスが形成されつつあることを意味します。

欧州の「AI法(EU AI Act)」や米国のバイデン政権下での大統領令など、世界的にAIガバナンスの枠組みが整備される中、企業にとっても「何が許容されないAI利用か」という倫理的・法的な境界線がより明確になりつつあります。

企業にとっての現実的な脅威:「なりすまし」と「ブランド毀損」

日本企業において、ディープフェイクはもはや芸能人や政治家だけの問題ではありません。実務的な観点から特に警戒すべきは、以下の2点です。

  • CEOや役員のなりすまし詐欺(BECの高度化):
    海外では既に、AIで生成された上司の「声」や「ビデオ会議の映像」に騙され、巨額の資金を送金してしまう事件が発生しています。従来のメールベースのビジネスメール詐欺(BEC)に加え、リアルタイムに近い動画や音声でのなりすましが可能になったことで、既存の承認プロセスの脆弱性が露呈しています。
  • 従業員の権利侵害とハラスメント:
    一般従業員の顔写真がSNS等から収集され、意図しない文脈の動画に加工されるリスクがあります。これは従業員の精神的苦痛を招くだけでなく、企業が安全配慮義務を問われる事態にもなりかねません。

日本企業のAI活用への示唆

グローバルな規制強化の流れと技術の進化を踏まえ、日本の経営層や実務担当者は以下の点に着目して対策を進めるべきです。

1. 本人確認プロセスの多層化(ゼロトラストの適用)

「画面越しの映像」や「電話越しの声」を無条件に信用する商習慣を見直す必要があります。特に高額な送金や機密情報のやり取りにおいては、AIでは模倣困難な多要素認証や、物理的な確認手段、あるいは社内独自の合言葉を併用するなど、アナログとデジタルを組み合わせた確認フローを設計することが、もっともコストパフォーマンスの良い防御策となります。

2. 従業員保護とデジタルフットプリントの管理

従業員に対し、自身の顔写真や音声データがAIの学習データやディープフェイクの素材として悪用されるリスクを教育する必要があります。また、企業として従業員のプロフィール写真を公開する際は、ウォーターマーク(電子透かし)技術の導入や、画像の解像度をあえて下げる、あるいはAIによるクローリングを拒否する設定を行うなど、技術的な防衛策を検討する段階に来ています。

3. ガバナンス体制のアップデートと危機管理広報

万が一、自社の経営陣のフェイク動画が出回った際に、どのように事実関係を否定し、ステークホルダーへの説明を行うか。広報部門と法務・IT部門が連携し、ディープフェイクを想定した危機管理マニュアル(クライシスコミュニケーション)を策定しておくことが推奨されます。AIの活用推進だけでなく、AIによる被害を想定した「守りのガバナンス」を確立することが、企業の信頼性を担保する鍵となります。

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