21 1月 2026, 水

英国「AI Growth Lab」が示唆する規制とイノベーションの均衡点:日本企業が採るべき「攻め」のガバナンス

英国政府が発表した「AI Growth Lab」構想は、特定の規制を緩和・調整することでAIイノベーションを促進する意欲的な取り組みです。この動きは、AI規制を単なる「禁止事項」ではなく、技術発展と安全性を両立させるための「調整弁」と捉えるグローバルな潮流を象徴しています。本稿では、この動向を俯瞰しつつ、日本の法規制や商習慣の中で、企業がどのようにAI活用のリスクと向き合い、競争力を高めていくべきかを解説します。

規制は「守るもの」から「実証するもの」へ

英国政府による「AI Growth Lab」へのエビデンス募集に対する回答(Response to call for evidence)は、AI開発における重要な転換点を示唆しています。それは、「標的を絞った規制の修正(targeted regulatory modifications)」を通じて、責任あるAIイノベーションを支援するという姿勢です。これは一般に「規制のサンドボックス」と呼ばれるアプローチの一環であり、現行法が想定していない最新技術に対し、限定された環境下で規制を一時的に緩和・調整し、実証実験を行うことを認める仕組みです。

生成AIやLLM(大規模言語モデル)の進化は極めて速く、固定的な法規制はすぐに陳腐化します。欧州(EU AI Act)が包括的かつ厳格なルール作りを先行させる一方で、英国や米国の一部では、イノベーションを阻害しないよう、柔軟なガバナンスモデルを模索しています。この「走りながらルールを調整する」姿勢こそが、今のAI開発競争において不可欠な要素となっています。

日本の「法規制・商習慣」とのギャップと機会

日本に目を向けると、内閣府主導の「規制のサンドボックス制度」や「グレーゾーン解消制度」など、類似の仕組みは既に存在しています。しかし、日本企業の多くは、法務リスクや炎上リスクを過度に恐れ、法解釈が完全に白黒つくまで導入を躊躇する傾向にあります。特に、「個人情報保護法」や「著作権法」の解釈、あるいはAIによるハルシネーション(もっともらしい嘘)が引き起こす製造物責任への懸念が、現場のブレーキとなるケースが散見されます。

しかし、英国の事例が示すように、グローバルな競争軸は「規制が整うのを待つ」から「規制当局と対話しながら実証する」へとシフトしています。日本企業においても、AIをプロダクトに組み込む際は、既存の法解釈に縛られるだけでなく、積極的に規制当局や業界団体と連携し、自社にとって有利かつ安全なルール形成を働きかける「アジャイル・ガバナンス」の視点を持つことが求められます。

リスクベース・アプローチの実践

もちろん、無条件な緩和はリスクを招きます。ここで重要になるのが「リスクベース・アプローチ」です。すべてのAI利用を一律に厳しく管理するのではなく、人命に関わる医療AIや金融審査AIなどの「ハイリスク領域」と、社内業務効率化やエンターテインメントなどの「低リスク領域」を明確に区分けし、メリハリのあるガバナンスを構築する必要があります。

日本の商習慣では「ゼロリスク」を求めがちですが、生成AIにおいてゼロリスクは不可能です。実務的には、AIの出力に対する「Human-in-the-loop(人間による確認プロセス)」の設計や、利用規約による責任範囲の明確化、そして万が一の際の透明性確保(説明可能性)の準備をしておくことが、技術的な精度向上と同じくらい重要になります。

日本企業のAI活用への示唆

英国の動向と日本の現状を踏まえ、意思決定者および実務者が意識すべき点は以下の3点に集約されます。

1. 「グレーゾーン」を恐れず、制度を活用する
法的に曖昧な領域(グレーゾーン)に直面した際、開発を止めるのではなく、日本の「グレーゾーン解消制度」や「規制のサンドボックス」を積極的に利用してください。これは法的安全性を確保するだけでなく、社内のコンプライアンス部門や経営層を説得する強力な材料になります。

2. 社内ガバナンスの「多層化」
一律禁止や全面許可ではなく、ユースケースごとのリスクレベルに応じたガイドラインを策定してください。特に機密情報を扱う社内LLMと、顧客向けの生成AIサービスでは、求められるセキュリティと許容されるリスクが全く異なります。

3. 規制当局・業界団体との対話
AIのルールは現在進行形で形成されています。受動的に従うだけでなく、自社の実証結果をもとに「技術的に何が可能で、何がリスクか」を社会やルールメーカーに対して発信していくことが、結果として自社のイノベーションを守ることにつながります。

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