21 1月 2026, 水

「デバイスの壁」を越えるAIエージェントの台頭:LenovoのCES発表が示唆する、ハードウェア×AIの新たな競争軸

世界最大のテクノロジー見本市CESにて、PC市場シェア世界トップのLenovoが、PC・スマートフォン・ウェアラブルデバイスを横断して機能する独自の「AIエージェント」を発表しました。この動きは、単なる新製品の発表にとどまらず、AIの主戦場が「クラウド上のチャットボット」から「デバイス上で自律的に動くエージェント」へと移行しつつあることを象徴しています。本稿では、この発表を起点に、エッジAIとデバイス間連携がもたらすビジネス環境の変化と、日本企業が備えるべきポイントを解説します。

「チャット」から「行動」へ:AIエージェントへの進化

2023年が「生成AIによる対話の年」であったとすれば、2024年以降は「AIエージェントによる行動の年」と位置づけられます。従来のChatGPTのようなサービスは、人間が質問を投げかけ、AIがテキストで答えるという受動的な関係が主でした。対して「AIエージェント」とは、ユーザーの意図を汲み取り、PCやスマホ内のアプリケーションを操作し、具体的なタスク(メールの送信、会議の設定、ファイルの移動など)を自律的、あるいは半自律的に実行するシステムを指します。

Lenovoが今回発表した技術の核心は、このエージェント機能が単一のデバイスに閉じるのではなく、PC、スマートフォン、ウェアラブルデバイスという異なるハードウェア間をシームレスにつなぐ点にあります。これは、ユーザーがデバイスを切り替えても、AIが文脈(コンテキスト)を維持し続けることを意味します。

オンデバイスAIとクロスプラットフォームの衝撃

この技術トレンドの背景には、「オンデバイスAI(エッジAI)」の進化があります。クラウドにデータを送らず、PCやスマホに搭載されたNPU(Neural Processing Unit:AI処理専用のプロセッサ)を用いてローカル環境でAIを動かす技術です。

日本企業、特に機密情報管理に厳格な組織にとって、オンデバイスAIは以下の点で大きなメリットがあります。

  • セキュリティとプライバシー:データが社外(クラウド)に出ないため、情報漏洩リスクを低減できる。
  • レスポンス速度:通信遅延がなく、サクサクとした操作感が得られる。
  • コスト管理:従量課金制のクラウドAPI利用料を抑制できる可能性がある。

Lenovoのアプローチは、これらのメリットを享受しつつ、PC(Windows)とスマホ(Androidなど)というOSの壁を越えてデータを連携させるものです。例えば、移動中にスマホで指示したタスクの続きを、オフィスのPCで即座に再開するといったワークフローが、特別な意識をせずとも実現される未来を描いています。

ベンダーロックインと相互運用性の課題

一方で、実務的な視点では冷静な評価も必要です。このようなクロスデバイス機能は、特定メーカーの製品で統一することで最大の効果を発揮する「囲い込み(エコシステム)」戦略の一環でもあります。

日本のビジネス環境では、PCはWindows(LenovoやHP、Dellなど)、社用スマホはiPhone、タブレットはiPadといったように、異なるメーカーやOSが混在するケースが一般的です。LenovoのAIエージェントが、他社製デバイスやOSとどの程度オープンに連携できるかは未知数です。特定のハードウェアに依存したAI活用は、将来的なベンダーロックインのリスクを高める可能性があり、IT調達戦略において慎重な判断が求められます。

日本企業のAI活用への示唆

今回のLenovoの発表を含め、AIエージェントの台頭は日本企業のIT戦略に以下の3つの示唆を与えます。

1. 従業員用端末(PC/スマホ)の選定基準の見直し

今後、PCやスマートフォンのリプレースを行う際、単なるCPU性能だけでなく「NPUの有無」や「AI処理能力」が重要な選定基準となります。AIエージェントをローカルで動かすには一定のハードウェアスペックが必要です。数年先を見据え、AI対応PC(AI PC)への投資を段階的に進める計画が必要です。

2. 「シャドーAI」へのガバナンス対応

デバイス自体に強力なAIが組み込まれることで、情報システム部門が管理しきれない「シャドーAI」のリスクが高まります。従業員がローカルのAIにどこまでの権限(ファイル操作、メール送信など)を与えてよいか、社内規定やガイドラインの整備が急務です。特に、自動化されたAIが誤った情報を顧客に送信してしまうリスクなどを考慮する必要があります。

3. デバイスを跨いだワークフローの再設計

「PCで作成し、スマホで確認する」といった従来の分断された業務フローから、「AIがデバイス間をつなぎ、場所を選ばず業務を遂行する」スタイルへの転換が可能です。営業職やフィールドエンジニアなど、移動の多い職種を中心に、AIエージェントを前提とした業務プロセスの見直しを行うことで、生産性を大きく向上させるチャンスがあります。

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