20 1月 2026, 火

セキュリティ運用は「対話」から「自律」へ:Microsoft Security Copilotに見るAIエージェントの進化

MicrosoftがSecurity Copilotに新たな「AIエージェント」機能を実装し、Microsoft DefenderやSentinelにおける脅威検出の自動化を強化しました。本記事では、この動きが象徴する「AIエージェント化」の潮流と、セキュリティ人材不足に悩む日本企業がこの技術をどう実務に組み込むべきかについて、リスクとガバナンスの観点から解説します。

「隠れた脅威」を可視化するAIエージェントの登場

Microsoftは、セキュリティ特化型の生成AIサービスである「Security Copilot」において、新たなAIエージェント機能を展開しました。このエージェントは、統合脅威管理ソリューションであるMicrosoft Defenderや、クラウドネイティブなSIEM(Security Information and Event Management)であるMicrosoft Sentinelと連携し、従来は見過ごされていた「隠れた脅威」を検出し、実用的なアラートをリアルタイムで提供するとされています。

これまでもAIによるログ分析や異常検知は存在しましたが、今回注目すべきは「エージェント(Agent)」という言葉が使われている点です。従来の「Copilot(副操縦士)」が人間の指示を待ってサポートする受動的な存在だとすれば、「エージェント」はあらかじめ定められた目的のために、自律的あるいは半自律的にタスクを遂行し、人間に判断材料を提示する能動的な役割を担います。これは、生成AIの活用フェーズが「チャットボット」から「自律型ワークフロー」へと移行しつつあるグローバルなトレンドを象徴しています。

サイロ化したデータの統合とコンテキストの理解

現代のセキュリティ運用(SecOps)における最大の課題の一つは、アラートの多さとツールの分散です。エンドポイント、クラウド、ID管理など、異なるシステムから発せられる膨大なログを人間が手動で突き合わせる作業は限界を迎えています。

今回のAIエージェント機能は、Defender(XDR領域)とSentinel(SIEM領域)を横断して情報を相関分析することで、単体のアラートでは無害に見える挙動から、高度な攻撃の兆候(隠れた脅威)をあぶり出すことを目指しています。LLM(大規模言語モデル)の強みは、構造化データ(ログ)だけでなく、非構造化データ(脅威インテリジェンスのレポートやコマンドラインの意図など)も含めた「文脈(コンテキスト)」の理解にあります。これにより、誤検知(False Positive)を減らし、運用担当者が本当に対応すべきインシデントに集中できる環境が整いつつあります。

日本企業におけるセキュリティ人材不足とAIの役割

日本国内に目を向けると、サイバーセキュリティ人材の不足は深刻です。経済産業省などの調査でも数十万人規模の不足が指摘されており、多くの企業では「ひとり情シス」や兼任担当者がセキュリティ運用を担っているのが実情です。

こうした環境下において、AIエージェントは「Tier 1アナリスト(初動対応を行う担当者)」の役割を代替・補完する強力なツールとなり得ます。AIが初期のトリアージ(優先順位付け)を行い、攻撃の全体像を日本語で要約して提示してくれれば、高度なスキルを持つ専門家でなくとも、迅速な意思決定が可能になります。また、海外発の脅威情報は英語であることが多いですが、LLMの翻訳・要約能力により、言語の壁による対応の遅れを防ぐ効果も期待できます。

導入におけるリスクとガバナンス

一方で、AIへの過度な依存にはリスクも伴います。生成AI特有の「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクはゼロではありません。AIが「脅威なし」と判断したものが実際には攻撃であった場合、またはその逆の場合の責任分界点は明確にしておく必要があります。

また、日本企業はデータの取り扱いに慎重であるべきです。自社のセキュリティログや機密情報が、学習データとして再利用されない設定(エンタープライズ版の利用規約の確認など)になっているか、AIガバナンスの観点から厳密にチェックする必要があります。「AIが勝手に判断して遮断した結果、基幹システムが停止した」といった事態を避けるため、初期段階では完全自動化ではなく、「Human-in-the-loop(人間が最終判断に関与する)」運用フローを設計することが重要です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のMicrosoftの動向を踏まえ、日本のビジネスリーダーやエンジニアは以下の点を意識してAI活用を進めるべきです。

1. SOC(セキュリティ・オペレーション・センター)の省力化検討
人材採用が困難な中、AIエージェントを「デジタル社員」としてチームに組み込む視点が必要です。特に夜間休日の監視や、大量のログ分析といった疲弊しやすいタスクからAIへの移譲を検討してください。

2. 「AIに何を任せないか」の定義
AIは何でもできる魔法の杖ではありません。自社のビジネスにとって致命的な誤判断を避けるため、AIの判断を人間がレビューするプロセスや、AIの権限範囲(読み取り専用にするか、遮断措置まで許可するか)をポリシーとして定めておく必要があります。

3. ベンダーロックインとマルチクラウドのバランス
Microsoftのエコシステムは強力ですが、日本企業ではAWSやGoogle Cloud、オンプレミス環境が混在することが一般的です。特定のAIツールがどこまでの範囲をカバーできるのか、死角(ブラインドスポット)が生まれないか、アーキテクチャ全体での評価が求められます。

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