20 1月 2026, 火

「画面のない」AIグラスが示唆する未来:Rokid「Style」に見る、ウェアラブルAIの新たな潮流と日本企業の向き合い方

ARグラス大手のRokidが、ディスプレイを搭載しないAI特化型スマートグラス「Style」を発表しました。視覚情報への依存を脱し、音声とAIによる「アンビエント(環境溶け込み型)」な体験を重視したこのデバイスは、日本企業における現場業務や顧客接点のあり方をどう変えるのでしょうか。CESでの発表内容を起点に、その実用性と課題を読み解きます。

「見る」デバイスから「感じる」デバイスへの転換

中国のAR(拡張現実)グラスメーカーであるRokidがCES 2026に向けて発表した「Style」は、これまでのスマートグラスの進化とは一線を画す特徴を持っています。それは「ディスプレイ・フリー(画面なし)」という点です。これまでGoogle GlassやMicrosoft HoloLens、そしてApple Vision Proといったデバイスは、いかに現実空間に高品質な映像を重ね合わせるか(AR/MR)を競ってきました。

しかし、「Style」のアプローチは異なります。視覚情報を表示するディスプレイを排除し、代わりに軽量化とデザイン性、そして「AIとの対話」に特化しました。これは、MetaのRay-Banスマートグラスが市場で一定の成功を収めた流れを汲むものであり、ウェアラブルデバイスの主戦場が「没入感(VR/AR)」から「常時接続されたAIアシスタント」へと移行しつつあることを示唆しています。

記事によると、このデバイスは一日中装着することを前提としており、視力矯正レンズにも対応、さらに「複数のAIエンジン」をサポートするとされています。これは、ユーザーが特定の巨大テック企業のAIに縛られず、状況に応じて最適なLLM(大規模言語モデル)を選択できる「AIオーケストレーション」のハードウェア化を意味します。

日本市場における「カモフラージュ」の重要性

日本国内でウェアラブルデバイスを普及させる上での最大の障壁は、実は技術スペックではなく「社会的受容性(ソーシャル・アクセプタンス)」です。カメラやセンサーが目立つ近未来的なゴーグルを装着して街中やオフィスを歩くことは、日本の組織文化や同調圧力の強い社会では心理的ハードルが極めて高いのが現実です。

その点で、「Style」のような「普通のメガネに見える」デザインは、日本市場にとって非常に合理的です。ディスプレイを省くことでバッテリー寿命が延び、軽量化され、違和感なく装着できるならば、製造現場や物流、医療といった「現場(Gemba)」だけでなく、接客業やオフィスワークでの導入も現実味を帯びてきます。

音声インターフェース(VUI)とマルチモーダルAIの可能性

ディスプレイがないということは、情報の入出力が主に「音声」と、内蔵カメラが捉えた「視覚情報のAI解析」になることを意味します。ここで重要になるのが、マルチモーダルAI(テキスト、画像、音声を統合して処理するAI)の進化です。

例えば、保守点検の現場で作業員が対象機器を見ると、AIがその画像を解析し、「この部品の摩耗が進んでいます。交換手順を読み上げますか?」と音声でナビゲートする。あるいは、商談中に相手の言語をリアルタイムで翻訳し、耳元でささやく。こうした「ハンズフリー・アイズフリー(手も目も塞がない)」のUX(ユーザー体験)は、労働力不足に悩む日本の現場業務の効率化に直結します。

日本企業が直面するプライバシーとガバナンスの壁

一方で、実務導入にはリスクも伴います。最大の懸念はプライバシーとデータガバナンスです。

カメラとマイクを常時搭載したデバイスを従業員が装着する場合、社内の機密情報や、周囲の一般市民・同僚のプライバシーをどう保護するかという問題が発生します。日本では特に「盗撮」に対する警戒感が強く、シャッター音の有無や録画中のインジケーター表示(LED点灯など)に対して厳しい目が向けられます。

また、記事にある「複数のAIエンジンのサポート」は利便性が高い反面、企業情報の入力先が分散することを意味します。業務利用する際、会話データや映像データがどこのサーバーに送信され、学習に利用されるのか(あるいはされないのか)を制御するMDM(モバイルデバイス管理)やAIガバナンスの仕組みが不可欠となります。

日本企業のAI活用への示唆

Rokid「Style」のようなディスプレイ・フリーAIグラスの登場は、AIがPCやスマホの画面の中から飛び出し、私たちの身体の一部となる未来を予感させます。日本企業は以下の3点を意識して準備を進めるべきです。

  • 「音声ファースト」の業務設計:
    画面を見ずに音声だけで完結する業務フローの構築実験を始めるべきです。既存のマニュアルやナレッジベースを、RAG(検索拡張生成)技術を用いて、AIが「読み上げて回答できる」形式に整備することが第一歩です。
  • ハードウェアに依存しないAI戦略:
    デバイスは次々と新しいものが登場します。「特定のデバイスでしか動かないアプリ」を作るのではなく、どのデバイスからでもアクセスできる共通のAIエージェント基盤を構築することが重要です。
  • 着用ポリシーとプライバシーガイドラインの策定:
    技術的な導入の前に、職場でのウェアラブルカメラの使用ルールや、顧客・従業員への周知方法など、法務・コンプライアンス面でのガイドラインを先回りして整備しておくことが、スムーズな導入の鍵となります。

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