17 1月 2026, 土

「フェイクの検知」から「真実の証明」へ:Instagram責任者の発言が示唆する、生成AI時代の新たな信頼モデル

Instagramの責任者アダム・モセリ氏が「AI生成物はあまりに普遍的であり、フェイクを特定するよりも、本物のメディアを証明する方が現実的になる」と発言しました。この視点は、生成AIの普及に伴う「いたちごっこ」の限界を示唆しています。日本企業が直面する情報の信頼性担保と、今後求められる技術的・戦略的アプローチについて解説します。

AI検知の限界とパラダイムシフト

Instagramの責任者であるアダム・モセリ氏による「フェイクを見分けるのではなく、本物を特定(フィンガープリント)する方が現実的である」という趣旨の発言は、AI業界における重要な転換点を突いています。これまで多くのプラットフォームや技術ベンダーは、AIによって生成された画像やテキストを「検知」することに注力してきました。しかし、生成モデルの進化スピードは検知技術のそれを上回っており、高精度な検知はもはや「いたちごっこ」の状態です。

技術的な観点からも、生成されたコンテンツ自体から「AIらしさ」を完全に特定することは、誤検知(False Positive)のリスクを伴います。一般ユーザーが撮影した少し手ブレのある写真や、フィルタ加工された画像が「AI生成」と誤判定されることは、ユーザー体験を著しく損ないます。モセリ氏の発言は、こうした「防御」のアプローチから、真正なコンテンツに証明書を付与する「認証」のアプローチへのシフトが必要不可欠であることを示唆しています。

「本物の証明」を支える技術動向

この「本物の証明」を実現するための技術標準として、グローバルではC2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)などの取り組みが進んでいます。これは、カメラで撮影された瞬間から編集、公開に至るまでの履歴(来歴情報)をデジタル署名として画像や動画に埋め込む技術です。MicrosoftやAdobeなどが主導しており、コンテンツが改ざんされていないことを保証します。

日本国内においても、慶應義塾大学や主要メディア企業、広告代理店などが参画する「Originator Profile(OP)」技術研究組合が活動を活発化させています。これは、ウェブ上のコンテンツの発信者が誰であるかを検証可能にする仕組みであり、日本独自の商習慣やメディア環境にも適応しようとする動きです。これらはまさに、モセリ氏が言う「リアルなメディアのフィンガープリント(指紋・証明)」の実装形態と言えます。

日本企業におけるリスクと実務的対応

日本企業にとって、このパラダイムシフトは対岸の火事ではありません。生成AIによるCEOのなりすまし動画(ディープフェイク)や、競合他社による悪意ある偽情報の拡散は、株価やブランド毀損に直結する現実的なリスクです。「AIで作られたものを検知ソフトで見破ればよい」という考え方は、前述の通り限界を迎えています。

実務においては、自社が発信する公式情報(プレスリリース、製品画像、IR資料など)に対して、いかにして「これは本物である」という証明を付与するかが問われるようになります。また、本人確認(eKYC)のプロセスにおいても、送られてきた画像がAI生成でないことを証明するために、撮影デバイス側での署名技術との連携が必要になるでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

生成AIが「空気」のように遍在する時代において、日本企業は以下の3点を意識して戦略を構築すべきです。

1. 「検知」への過度な依存からの脱却
AI検知ツールは補助的な手段に留め、完全な防御策とは見なさないことが重要です。リスク管理の基本を「偽物の排除」から「真正性の担保」へシフトさせる必要があります。

2. 真正性証明技術(C2PA/OP等)の早期キャッチアップ
メディア、エンターテインメント、広告業界はもちろん、信頼性が重視される金融や製造業においても、自社コンテンツに「電子透かし」や「来歴情報」を付与する技術の導入検討を始める時期に来ています。これはブランド保護の観点からも有効な投資となります。

3. クライシス・コミュニケーションの再設計
「社長の偽音声」や「偽の不祥事画像」が出回った際、即座に「それが偽物である」と主張するのではなく、「公式ルート(自社サイト等)にある署名付きコンテンツのみが本物である」と証明できる体制を整えておくことが、ガバナンス上の防波堤となります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です