AIはこれまでのキャリアで見たどの技術よりも速くプロダクトマネジメントを変えつつあります。しかし同時に、「AI PM(AIプロダクトマネージャー)」という言葉の流行には既視感もあります。本記事では、一過性のブームと本質的な変化を見極め、日本企業がどのようにAIをプロダクト開発に統合すべきかを解説します。
「AI PM」という役割は定着するのか、それとも過渡期の現象か
PendoのCEOであるTodd Olson氏が指摘するように、現在のAIブーム、特に「AI PM(AIプロダクトマネージャー)」という専門職種の台頭は、かつての技術トレンドと類似しています。私たちは過去に「モバイルPM」や「クラウドPM」、あるいは「ソーシャルPM」といった言葉が流行し、その後消えていくのを目撃してきました。
それらの職種が消えたのは、モバイルやクラウドが廃れたからではありません。むしろ逆で、それらが「当たり前」の技術となり、すべてのプロダクトマネージャー(PdM)にとって必須のスキルセットに統合されたからです。生成AI(Generative AI)も同様の道を辿る可能性が高いでしょう。現時点では、プロンプトエンジニアリングやLLM(大規模言語モデル)の特性を理解した専門家が重宝されていますが、長期的には「AIを使って課題を解決すること」は、PdMの標準的な職能の一部になると予測されます。
プロダクト開発の現場でAIが変えるもの、変えないもの
AIは、顧客フィードバックの分析、仕様書のドラフト作成、データ分析といったPdMの業務効率を劇的に向上させています。しかし、プロダクトマネジメントの根幹である「誰の、どのような課題を解決し、どのような価値を提供するのか」という問いは変わりません。
AI技術ありきで機能を実装する「ソリューション先行」のアプローチは、多くの日本企業が陥りやすい罠です。チャットボットを導入したもののユーザーに使われない、あるいは生成AIを組み込んだがコストに見合う価値が出ない、といったケースは後を絶ちません。AIは強力なツールですが、それ自体がプロダクトの目的ではないことを再確認する必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
グローバルの潮流と日本の商習慣を踏まえ、組織のリーダーや実務者は以下の3点を意識すべきです。
1. 専門職としての「AI PM」設置よりも、既存人材の底上げを
「AI専門の部署」や「AI PM」を隔離して設置するアプローチは、初期段階では有効ですが、長期的にはサイロ化(組織間の分断)を招くリスクがあります。日本の組織文化では、現場のドメイン知識(業務知識)を持つ既存のPdMやエンジニアがAIリテラシーを身につける方が、実用的なソリューションを生み出しやすい傾向にあります。
2. リスクとガバナンスを「ブレーキ」ではなく「ガードレール」にする
日本企業はハルシネーション(もっともらしい嘘の出力)や著作権侵害、セキュリティリスクに対して非常に敏感です。しかし、リスクを恐れて全面禁止にすれば競争力を失います。法務・コンプライアンス部門と連携し、「ここまでは安全に実験できる」というガードレール(ガイドライン)を早期に策定することが重要です。これにより、現場は安心してAI活用に取り組めます。
3. 「魔法」ではなく「確率」として管理する
LLMは確率的に次の単語を予測する技術であり、100%の正確性を保証するものではありません。この「確率的な挙動」を許容できるユースケース(例:アイデア出し、下書き作成、要約)と、許容できないユースケース(例:金融取引の自動実行、医療診断の確定)を明確に区分けすることが、日本企業の品質基準を満たすAI活用の鍵となります。
