米Gizmodoなどの報道によると、OpenAIは将来的に成人向けコンテンツ(NSFW)の生成を一部許容する方針を検討しており、2026年頃の実装が取り沙汰されています。この動きは単なる「アダルト解禁」にとどまらず、AIモデルの安全基準を誰が決めるかというガバナンスの根幹に関わる重要な転換点です。本稿では、このトレンドが日本企業のAI活用やリスク管理にどのような影響を与えるかを解説します。
報道の背景:NSFWコンテンツへの対応変化
Gizmodoの記事によると、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は、ユーザーからの要望に応える形で、いわゆる「アダルトモード(Adult Mode)」の実装を示唆しており、その時期は2026年頃と予想されています。これは、これまで暴力や性的な表現を含む「NSFW(Not Safe For Work:職場での閲覧に不適切なコンテンツ)」を厳格に排除してきたOpenAIの方針転換を意味します。
これまでChatGPT等のLLM(大規模言語モデル)は、開発元の定める「安全基準」によって、公序良俗に反する可能性のある出力を画一的にブロックしてきました。しかし、創作活動や特定の文脈においては、より柔軟な表現が求められるケースもあり、ユーザーの間で議論が続いていました。
「画一的な安全性」から「ユーザー主導の調整」へ
この動きの背景にあるのは、生成AIの「アライメント(人間の意図や価値観への適合)」に関する考え方の変化です。全世界で数億人が利用するサービスにおいて、単一の基準ですべての文化的・道徳的判断を行うことには限界があります。米国では許容されない表現が他国では問題ない場合や、その逆も然りです。
OpenAIが検討しているのは、違法なコンテンツ(児童性的虐待記録物やディープフェイクによる人権侵害など)は引き続き厳格に禁止しつつ、合法な範囲内での成人向けコンテンツや過激な表現については、ユーザーが自律的に設定を変更できるようにするという方向性です。これは、安全性の責任の一部をプラットフォーマーからユーザーへと移譲するプロセスとも捉えられます。
日本企業にとっての新たなリスクと課題
企業が業務でAIを活用する場合、モデルの規制緩和は「諸刃の剣」となります。モデルが柔軟になるということは、意図せず不適切な回答が生成されるリスクも高まることを意味するからです。
特に日本では、刑法175条(わいせつ物頒布等)などの法規制に加え、企業の「ブランド毀損」に対する懸念が非常に強い傾向にあります。もし、自社のカスタマーサポート用チャットボットが、規制緩和されたモデルをベースにしており、ユーザーの誘導によって不適切な発言をしてしまった場合、炎上リスクは避けられません。
したがって、ベースモデル側のガードレール(安全装置)が緩むのであれば、APIを利用する企業側で、これまで以上に厳格な入力フィルタリングや出力監視(Moderation APIの活用など)を実装する必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の報道は、AIガバナンスの在り方が「ベンダー任せ」では通用しなくなる未来を示唆しています。日本の意思決定者やエンジニアは以下の点を意識する必要があります。
- 自社基準のガードレール構築:モデルプロバイダー(OpenAI等)のデフォルトの安全性に依存せず、自社の倫理規定やブランドイメージに合わせたフィルタリング機能をアプリケーション層で実装すること。Azure OpenAI ServiceのContent Safety機能や、独自の禁止ワードリストなどの活用が必須となります。
- 法的リスクの再確認:米国企業が「合法」とする範囲(NSFWコンテンツの許容)が、必ずしも日本の法規制や商習慣と合致するとは限りません。生成されたコンテンツが日本のわいせつ概念や著作権法、名誉毀損に抵触しないか、法務部門と連携したガイドライン策定が求められます。
- モデル選定の多角化:用途に応じてモデルを使い分ける視点も重要です。クリエイティブな用途では表現力の高い(規制の緩い)モデルを使い、顧客対応などの堅牢性が求められる場面では、より保守的なモデルや、国内ベンダーが開発した日本文化に特化したモデルを採用するなど、適材適所の選定がリスクヘッジになります。
