Snowflake CEO シュリダール・ラマスワミ氏による2026年のAI予測をベースに、今後の企業AIのあり方を読み解きます。生成AIの初期ブームが落ち着き、実利とROI(投資対効果)が厳しく問われるフェーズへ移行する中、日本企業が直面する「対話から実行へ」の変化と、それに伴うガバナンスの重要性について解説します。
「お喋り」から「仕事」をするAIへ
過去1年、私たちはChatGPTをはじめとするLLM(大規模言語モデル)の驚異的な言語能力に触れ、業務での利用を模索してきました。しかし、SnowflakeのCEO、シュリダール・ラマスワミ氏らが指摘する2026年に向けた最大のトレンドは、AIが単なる「チャットボット(対話相手)」から、具体的なタスクを完遂する「エージェント(実行者)」へと進化することです。
これまでのAI活用は、メールのドラフト作成や要約といった「人間の作業の補助」が中心でした。しかし今後は、AIが社内のデータベースにアクセスし、在庫を確認し、発注書を作成し、上長の承認フローに回すといった、一連の業務プロセスを自律的にこなす「エージェント型」の利用が主流になります。
日本企業においては、少子高齢化による人手不足が深刻化しており、定型業務の自動化は待ったなしの課題です。単に質問に答えるだけのAIではなく、バックオフィスの複雑なワークフローを代行できるエージェントAIの実装は、日本の「2025年の崖」や「2024年問題」に対する有力な解となるでしょう。
巨大モデル一辺倒からの脱却と「データ」への回帰
初期の生成AIブームでは、パラメータ数の多い巨大な汎用モデル(Foundation Models)が注目されました。しかし、企業ユースにおいては「すべてを知っているがコストが高く、動作が遅い巨大モデル」よりも、「自社データに精通し、特定タスクを低コスト・高速にこなす小規模モデル(SLM)」の価値が見直されつつあります。
ラマスワミ氏の予測にも通じますが、企業にとっての差別化要因は「どのAIモデルを使うか」ではなく「自社のデータをいかにきれいに整備し、AIに食わせるか」にあります。どれほど高性能なAIであっても、参照するデータが不正確であれば、誤った判断(ハルシネーション)を引き起こします。
特に日本の商習慣では、正確性とアカウンタビリティ(説明責任)が非常に重視されます。「AIが言ったから」では済まされないミスを防ぐためにも、社内データの整備(データガバナンス)と、AIが回答の根拠とするデータを明示させるRAG(検索拡張生成)のような技術の重要性が、2026年に向けてさらに高まるでしょう。
ソフトウェア開発とデータ分析の民主化
もう一つの大きな潮流は、ソフトウェア開発やデータ分析のハードルが劇的に下がる点です。自然言語で指示を出せば、AIがSQLクエリを書いたり、アプリケーションのコードを生成したりする世界が当たり前になります。
これは、日本の多くの企業が抱える「IT人材不足」や「エンジニア不足」を補う一助となります。現場の業務担当者が、エンジニアに依頼せずとも自らデータから知見を引き出し、簡単な業務アプリを作成できるようになれば、現場主導のDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速します。一方で、生成されたコードやクエリの品質を誰がどう担保するかという、新たな品質管理の課題も浮上するため、組織的なルール作りが必要です。
日本企業のAI活用への示唆
2026年に向けたAIの進化を踏まえ、日本企業のリーダーや実務者は以下の3点に注力すべきです。
1. 「PoC疲れ」からの脱却と実務適用
「とりあえずAIで何かやってみる」という実証実験(PoC)のフェーズは終了しました。今後は「どの業務プロセスをエージェントに任せるか」というBPR(業務改革)の視点で、具体的なROIが見込める領域へ投資を集中させるべきです。
2. データガバナンスの再構築
AI活用は「データの質」に依存します。部門ごとにサイロ化したデータを統合し、セキュリティポリシーを統一することは、AI導入の前段階として避けて通れません。日本企業特有の「紙文化」や「属人化データ」のデジタル化・構造化を急ぐ必要があります。
3. 「AIマネジメント」人材の育成
コードを書くエンジニアだけでなく、AIエージェントの成果物を評価・監督し、責任を持つ「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が関与する仕組み)」を担う人材が必要です。AIを魔法の杖として丸投げするのではなく、あくまで部下やパートナーとしてマネジメントする能力が、現場の管理職に求められるようになります。
