22 1月 2026, 木

インドIT企業の巨額買収に見る「AI×デジタルエンジニアリング」の潮流と日本企業への示唆

インドのITサービス企業Coforgeによる米Encoraの23.5億ドルでの買収は、単なる企業の合併劇ではなく、世界のITサービス産業が「保守・運用」から「AI主導の製品開発」へと急速にシフトしていることを象徴しています。このグローバルな再編が、外部ベンダーへの依存度が高い日本企業のIT戦略やAI導入にどのような影響を与えるのかを解説します。

ITサービス業界における「AI実装力」の争奪戦

2025年12月26日、インドのITサービス大手Coforgeが、米国に拠点を置くデジタルエンジニアリング企業Encoraを企業価値23.5億ドル(約3,500億円規模)で買収すると発表しました。このニュースは、IT業界における「潮目の変化」を明確に示しています。

これまでインドのITサービス企業といえば、欧米や日本の大企業向けに、安価で高品質なシステム保守・運用(AMO)やBPOを提供する「バックオフィスの守り手」という印象が強い存在でした。しかし、今回の買収の主眼は明らかに「AIオファリングの強化」にあります。

Encoraは、従来型のシステム開発ではなく、クラウドネイティブな製品開発やデータエンジニアリング、そして生成AIの実装を得意とする「デジタルエンジニアリング」領域のプレイヤーです。Coforgeのような伝統的なITベンダーが、これほどの巨費を投じてAI特化型の企業を買収する背景には、顧客であるグローバル企業のニーズが「コスト削減」から「AIを活用したトップライン(売上)の拡大」へと急速に移行している事実があります。

「デジタルエンジニアリング」とAIの不可分な関係

日本国内では「AI導入」というと、チャットボットの導入やPoC(概念実証)の実施といった単発のプロジェクトとして語られることが少なくありません。しかし、グローバルの潮流、特にEncoraのような企業が主戦場としているのは「デジタルエンジニアリング」と呼ばれる領域です。

デジタルエンジニアリングとは、単にITシステムを作ることではなく、顧客体験を向上させるためのソフトウェアプロダクト自体を、最新の技術(クラウド、マイクロサービス、そしてAI)を用いてアジャイルに開発・改善し続けるアプローチを指します。ここでは、AIは「後から付け足す機能」ではなく、ソフトウェアの設計段階から組み込まれる「コアコンポーネント」として扱われます。

今回の買収劇は、AIを実務で活用するためには、従来のウォーターフォール型のシステム開発体制ではなく、データとアルゴリズムを継続的に製品に統合できるエンジニアリング体制が不可欠であることを示唆しています。

日本企業を取り巻く「ベンダー依存」のリスクと機会

日本企業、特に多くの事業会社は、システム開発やAI導入においてSIer(システムインテグレーター)やベンダーへの依存度が高い傾向にあります。この商習慣において、今回のグローバルな再編は重要な意味を持ちます。

世界のITベンダーは今、AI人材とノウハウを確保するために必死です。自社で育成するスピードでは市場の変化に追いつかないため、M&Aによる「時間の購入」が進んでいます。これは裏を返せば、十分なAI実装能力を持たないITベンダーは、今後グローバル市場で淘汰される可能性があるということです。

日本企業がAIパートナーを選定する際、これまでの「付き合いの長さ」や「人月単価の安さ」だけで判断するのはリスクが高まっています。そのベンダーが、単にAPIを叩くだけの提案をしてくるのか、それともデータパイプラインの構築からMLOps(機械学習基盤の運用)までを含めた、堅牢なエンジニアリング能力を持っているのかを見極める必要があります。

日本企業のAI活用への示唆

CoforgeによるEncora買収の事例から、日本企業の意思決定者やエンジニアが汲み取るべき実務的なポイントは以下の3点です。

1. パートナー選定基準の再定義

外部パートナー(SIerや開発会社)を選定する際、従来の「要件通りにシステムを作る能力」に加え、「AIとデータを製品開発のライフサイクルに統合する能力(デジタルエンジニアリング力)」を評価基準に含めるべきです。具体的には、PoCで終わらせず、本番環境での継続的なモデル更新やガバナンス対応の実績があるかを問う必要があります。

2. 「丸投げ」からの脱却とハイブリッド体制

AI活用は企業の競争力の源泉となるため、すべてを外部に丸投げすることは、自社にノウハウが蓄積されないという致命的なリスクになります。一方で、世界的なAI人材獲得競争の中で、すべてを内製化するのも非現実的です。グローバルの技術動向に明るいパートナーと協業しつつ、プロダクトオーナーやアーキテクトといったコア人材は社内に配置する「ハイブリッド体制」の構築が急務です。

3. スピード感を持った技術獲得

Coforgeが巨額買収で時間を買ったように、日本企業もAI機能の実装においてスピードを重視する必要があります。ゼロからすべてを開発するのではなく、SaaSや既存のAIモジュール、あるいは専門性を持つブティック型AIベンダーの力を積極的に借りて、市場投入までの時間を短縮する戦略が求められます。

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