24 1月 2026, 土

2025年のAI脅威トレンド:悪意ある利用の急増から考える、日本企業の防御戦略とガバナンス

ChatGPTの登場から3年以上が経過し、生成AIは爆発的な普及を見せる一方で、悪意ある主体による利用も新たなフェーズに入りました。テロリストや犯罪組織によるAI利用の急増を示唆するレポートを起点に、日本のビジネスリーダーが認識すべきセキュリティリスクと、イノベーションを止めずに守りを固めるための実務的アプローチを解説します。

AIの「民主化」がもたらした脅威の非対称性

OpenAIがChatGPTを公開してから3年以上が経過し、生成AIはビジネスや個人の生活に不可欠なツールとなりました。しかし、テクノロジーの「民主化」は、同時に脅威の「民主化」も意味しています。米国などの安全保障専門誌が指摘するように、2025年はテロリストや犯罪組織によるAI利用が急増する年として警戒されています。

これまで高度なサイバー攻撃や精巧なプロパガンダ工作には、専門的な知識と多額の資金が必要でした。しかし、大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIの普及により、技術的背景を持たない個人や小規模な組織でも、極めて低コストで高度な攻撃を計画・実行できるようになったのです。これは「非対称な脅威」と呼ばれ、守る側の企業や国家にとって非常に厄介な状況を生み出しています。

日本企業を取り巻く具体的なリスクの変化

日本企業にとって、この「悪意あるAI利用」は対岸の火事ではありません。特に注目すべきは、かつて日本のセキュリティにおける「防壁」となっていた「日本語の壁」の崩壊です。

従来のフィッシングメールや詐欺メッセージは、不自然な日本語によって見抜くことが容易でした。しかし、最新のLLMは流暢かつ自然な、さらには特定の文脈や企業文化に合わせた日本語を生成可能です。これにより、従業員が騙される「ソーシャルエンジニアリング」のリスクが格段に高まっています。

また、生成AIを用いたコーディング支援は、マルウェアの開発サイクルを短縮させます。既知の脆弱性を突く攻撃コードがAIによって自動生成され、日本の重要インフラやサプライチェーンを狙う事例も懸念されています。物理的なテロの計画においても、AIが公開情報を効率的に収集・分析し、警備の脆弱性を洗い出すために悪用されるリスクも、現実的なシナリオとして議論されています。

「守り」のためのAI活用とガバナンス

このような脅威に対し、日本企業はAIの利用を禁止すべきでしょうか。答えは「No」です。攻撃側がAIで武装する以上、防御側もAIを活用しなければ対抗できません。

現在、セキュリティ運用の現場では「Defensive AI(防御的AI)」の導入が進んでいます。膨大なログから異常検知を行うAIや、攻撃の予兆を察知して自動対処するシステムの導入は、人材不足に悩む日本のセキュリティ現場にとって必須の選択肢となりつつあります。

また、AIガバナンスの観点からは、「レッドチーミング」の重要性が増しています。これは、あえて攻撃者の視点に立って自社のAIシステムや組織への攻撃をシミュレーションし、脆弱性を洗い出す手法です。開発段階からセキュリティを組み込む「Security by Design」の徹底が、AI時代にはより一層求められます。

日本企業のAI活用への示唆

グローバルな脅威動向を踏まえ、日本の経営層や実務責任者は以下の3点を意識してAI戦略を進める必要があります。

1. 「日本語の壁」崩壊を前提とした教育と訓練
「怪しい日本語なら詐欺」という従来の常識は通用しません。従業員に対し、AIによって生成された高度ななりすましメールや、経営幹部の声を模倣したディープフェイク音声詐欺(CEO詐欺)の可能性を周知し、多要素認証や承認プロセスの厳格化といった泥臭い対策を徹底する必要があります。

2. 攻撃者視点を取り入れたリスク評価
AIシステムを導入する際、単に「ハルシネーション(嘘の出力)」や「著作権侵害」を気にするだけでなく、「このAIが悪意ある第三者に乗っ取られた場合、どのような被害が出るか」という視点を持つことが重要です。プロンプトインジェクション(AIへの不正な命令入力)対策など、技術的な防御策をベンダー任せにせず、自社のリスク許容度と照らし合わせる姿勢が求められます。

3. 政府・業界団体のガイドラインへの準拠と国際連携
日本政府が進める「広島AIプロセス」などの国際的な枠組みや、総務省・経産省のガイドラインは、ソフトロー(法的拘束力のない規範)中心ですが、企業の法的責任を問われる際の重要な基準となります。これらを参照しつつ、サイバーセキュリティに関しては一社で完結せず、業界全体での脅威インテリジェンス(脅威情報の共有)に参加することが、レジリエンス(回復力)向上に繋がります。

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