24 1月 2026, 土

ServiceNowによるArmis買収が示唆する「AIコントロールタワー」の重要性と日本企業への教訓

ServiceNowがサイバーセキュリティ企業のArmisを約77.5億ドル(約1兆2000億円)で買収するというニュースは、単なるセキュリティ業界の再編にとどまらない大きな意味を持っています。AIが「対話」から「自律的な行動(エージェント)」へと進化する中で、企業が整備すべきデータ基盤とガバナンスのあり方について解説します。

「AIコントロールタワー」の構築に向けた戦略的買収

米国時間2025年に報じられたServiceNowによるArmisの買収は、エンタープライズAIの潮流における重要な転換点を示唆しています。ServiceNowは企業のワークフローを自動化するプラットフォームとして知られていますが、今回のArmis買収により、IT資産だけでなく、OT(運用技術)、IoT、医療機器といった「管理されていないデバイス」を含む、企業内のあらゆるデジタル資産の可視性を手に入れることになります。

この動きの背景にあるキーワードが「AIコントロールタワー」です。企業が生成AIや大規模言語モデル(LLM)を業務プロセスに組み込む際、AIが正確に判断を下すためには、社内に「何が存在し、どのような状態にあるか」という正確な地図(資産データ)が不可欠です。Armisが持つ強力な資産インテリジェンスを統合することで、ServiceNowはAIが安全かつ自律的に動くための基盤を強化しようとしています。

AIエージェント時代に求められる「完全な可視性」

現在、AIのトレンドはチャットボットによる支援から、人の代わりにタスクを実行する「AIエージェント」へと移行しつつあります。例えば、「セキュリティパッチを適用する」「故障した機器のチケットを発行する」といったアクションをAIに任せる場合、対象となるシステムの正確な状況把握が前提となります。

もし、AIが参照する構成管理データベース(CMDB)が古かったり、工場のOT機器が把握されていなかったりすれば、AIは誤った判断を下し、システム障害やセキュリティインシデントを引き起こすリスクがあります。「見えないものは守れないし、自動化もできない」という原則は、AI時代においてより一層重要度を増しています。今回の買収は、AIを安全に実務適用するためには、まず足元の資産管理を徹底する必要があるというメッセージとも受け取れます。

日本の製造業・インフラ産業におけるOTセキュリティの課題

日本企業、特に製造業や重要インフラを担う組織にとって、この動向は他人事ではありません。日本の現場には、長年稼働し続けているレガシーなシステムや、IT部門の管理外にある工場内ネットワーク(OT環境)が数多く存在します。

これまで日本の組織では、IT部門(情報システム)とOT部門(工場・現場)のサイロ化が課題とされてきました。しかし、AIを活用して全社的な生産性向上や予知保全を行おうとすれば、これらを統合的に管理する必要があります。Armisのような技術が注目されるのは、エージェントを導入することなくネットワークトラフィックから受動的に資産を特定できるため、稼働中の重要システムに影響を与えにくいという点において、日本の現場のニーズと合致する側面があるからです。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例から、日本企業の経営層やリーダーが意識すべきポイントは以下の3点に集約されます。

1. 資産管理は「守り」ではなく「AIの前提条件」である

資産管理や構成管理は地味なバックオフィス業務と見なされがちですが、AI活用の文脈ではこれが「燃料」となります。正確なデジタルツイン(現実の資産状況のデジタル化)がなければ、高度なAIソリューションを導入しても期待通りの効果は得られません。AIプロジェクトを開始する前に、まず自社のIT/OT資産が可視化されているかを見直す必要があります。

2. AIエージェント導入に向けたガバナンスの再設計

AIが自律的にシステム設定を変更したり、ワークフローを回したりする時代が到来します。これに備え、「AIが何を見て、何を操作できるか」を制御する権限管理と、その振る舞いを監視する仕組み(AIガバナンス)を、セキュリティ戦略の一部として組み込む必要があります。

3. 部門を超えたデータ統合の加速

「IT部門の管轄」と「現場の管轄」という縦割りの意識は、AI活用における最大のリスク要因です。セキュリティと運用効率の両面から、組織横断的な「コントロールタワー」機能を持ち、全社的な資産状況を一元的に把握できる体制づくりが、日本企業のDXを次のステージへ進める鍵となります。

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