B2Bの購買プロセスにおいて、ChatGPTやPerplexityなどのAIアシスタントを初期調査に活用するケースが急増しています。しかし最新の調査によれば、B2B SaaS企業の約半数がAIから「見えない」状態にあることが明らかになりました。本記事では、この調査結果から見えてくるAI検索時代の情報発信のあり方と、日本企業がとるべきアクションについて解説します。
AIアシスタントの台頭と変化するB2Bの購買行動
近年、業務効率化や新たなツール導入の初期調査において、従来の検索エンジンに代わり、ChatGPTやPerplexity(検索特化型の対話型AI)などのAIアシスタントを活用するビジネスパーソンが増加しています。特定の課題に対する解決策や、自社に合ったツールの比較表を迅速に作成してくれるAIは、情報収集の強力なパートナーとなっています。
特に日本企業においては、稟議制度に代表されるように「複数ツールの比較検討と客観的な評価」が重視される組織文化があります。そのため、膨大な情報からフラットな視点で要点を整理・比較してくれるAIアシスタントは、B2Bバイヤーにとって非常に相性の良いツールと言えます。
B2B SaaS企業の44%がAIから「見えない」という現実
こうした中、AIによる情報推薦の影響力を裏付けるデータが発表されました。DerivateXによるベンチマークレポート「The State of AI Visibility in B2B SaaS」において、50のB2B SaaS企業を分析した結果、実に44%の企業がAIアシスタントの回答に表示されない、つまりAIを利用するバイヤーから「見えない(Invisible)」状態にあることが判明したのです。
これは、どれだけ優れたプロダクトを提供していても、AIが学習・参照する情報ソースの中に適切に組み込まれていなければ、検討の土俵にすら上がれないことを意味します。AIの回答に自社情報を最適化する「GEO(Generative Engine Optimization:生成AI最適化)」という概念が、今後のB2B事業において無視できないテーマになりつつあります。
なぜAIから「見えない」のか?LLMの仕組みと課題
AIが特定の企業やサービスを認識できない主な理由は、背後にあるLLM(大規模言語モデル)の仕組みに起因します。LLMは過去の膨大なテキストデータを学習していますが、常に最新情報を保持しているわけではありません。検索を伴うAIは、ウェブ上の情報をリアルタイムに取得して回答を作りますが、ウェブサイトの構造がAIにとって読み取りにくかったり、客観的な評価(導入事例や第三者メディアでの言及)が不足していたりすると、回答ソースとして選ばれにくくなります。
日本市場のB2B商習慣においてよく見られる「詳細な仕様や価格は問い合わせベース(非公開)」「機能説明が画像やPDFパンフレットのみに依存している」といった情報発信のスタイルは、AIアシスタントによる情報の抽出を困難にし、結果として「見えない」状態を引き起こす大きな要因となります。
リスクと限界:AIの回答をどう捉えるべきか
一方で、AIアシスタントの回答を盲信することにはリスクも伴います。AIはもっともらしい嘘(ハルシネーション)を出力することがあり、存在しない機能をでっち上げたり、誤った価格を提示したりするケースが存在します。また、将来的にAIの回答を意図的に操作しようとする手法が登場する懸念もあり、コンプライアンスや情報信頼性の観点から注意が必要です。
企業側はAIに依存しすぎず、公式サイトにおいて正確な一次情報(ファクト)を継続的に提供することが求められます。同時に、情報を利用する側も、AIの出力をあくまで「初期調査の参考」と位置づけ、最終的な事実確認は提供元の公式情報で行うというリテラシーが不可欠です。
日本企業のAI活用への示唆
今回の調査結果は、自社のプロダクトやサービスを市場に届ける上で、AIという新しい「仲介者」を意識することの重要性を示しています。日本企業が実務において考慮すべきポイントは以下の通りです。
第一に、デジタル上の情報構造の見直しです。AIに正確に認識されるためには、自社の強み、機能、対象顧客、価格体系などの情報を、テキストベースで明確かつ論理的に整理して公開することが求められます。PDFや画像に閉じ込められた情報は、AIには届きにくいという前提に立つ必要があります。
第二に、客観的な情報の蓄積です。AIは公式サイトの自己申告だけでなく、プレスリリース、導入事例、第三者プラットフォームでのレビューなど、複数のソースを総合して回答を生成する傾向があります。自社のエコシステム全体で、質の高い情報がウェブ上に流通する仕組みを作ることが重要です。
第三に、本質的な透明性の確保です。AIのアルゴリズムは日々進化しており、従来のSEOのような「正解」はまだ確立されていません。小手先の対策に走るのではなく、顧客にとって本当に価値のある情報を透明性をもって発信し続けるという誠実なコミュニケーションが、結果としてAI時代における最大の対策であり、健全なガバナンス対応にも繋がります。
