生成AIは「対話」から「実行」のフェーズへと急速に移行しています。AIエージェントがアプリやウェブを操作するための規格として、Googleが推進する「A2UI」と、Anthropic等が先行し業界標準となりつつある「MCP」という異なるアプローチが注目されています。本記事では、この技術動向を解説し、日本のシステム環境やガバナンスへの影響を考察します。
「チャット」から「アクション」へ:AIエージェントの課題
大規模言語モデル(LLM)の進化は、テキスト生成という枠を超え、ユーザーに代わってタスクを実行する「AIエージェント」の領域へと及んでいます。しかし、ここで最大の障壁となるのが、AIがどのように既存のアプリケーションやデータを操作するかという「インターフェース」の問題です。
人間は目で画面を見て、マウスや指で操作しますが、AIにとってそれは非効率であり、技術的にも複雑です。現在、このAIとアプリケーションをつなぐ接続方法(コネクティビティ)を巡り、大きく二つのアプローチが台頭しています。一つはウェブやAPIを中心とした標準化プロトコル(MCP等)、もう一つはOSレベルで画面を解釈するネイティブアプローチ(Google A2UI)です。
Google A2UI:モバイルOSそのものをAIの目に
GoogleがAndroid向けに開発している「A2UI(Android AI User Interface)」は、OSのアクセシビリティ機能を拡張し、AIが画面上の要素(ボタン、テキスト、メニューなど)を直接理解・操作できるようにする技術です。
これは、人間がスマホを操作するのと同様に、AIがアプリのUI構造を読み取ってアクションを起こすアプローチです。APIが公開されていないアプリであっても、画面上に操作要素があればAIが介入できる点が強みです。Googleのエコシステム(Android、Gemini)内での統合を前提としており、モバイルファーストな戦略と言えます。
MCP Apps:ウェブとAPIによる標準化への道
対照的に、Anthropicが提唱し、業界で急速に支持を広げているのが「MCP(Model Context Protocol)」を中心としたアプローチです。これは、AIモデルが外部のデータやツールと接続するための共通規格を定めようとする動きです。
MCPのアプローチは、AIが画面を見るのではなく、定義されたプロトコルを通じてサーバーやアプリケーションと直接通信します。これは「API連携」の進化形とも言え、動作が軽量で安定しており、特定のOSやプラットフォームに依存しにくいという特徴があります。ウェブベースのSaaSや社内システムとの連携においては、こちらが主流になる可能性が高いでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
1. 「RPAの再来」か「API連携」かを見極める
GoogleのA2UIのようなアプローチは、日本企業に馴染み深い「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」のスマホ版・AI版と捉えることができます。APIがない古いレガシーシステムや、GUIしか持たない業務アプリを操作させる場合、この画面操作型のアプローチは強力な武器になります。一方、SalesforceやSlack、kintoneといったモダンなSaaSを組み合わせる場合は、MCPのようなAPIベースの接続が、セキュリティと安定性の観点から推奨されます。
2. セキュリティとガバナンスの境界線
AIに「画面を見せる(A2UI)」ことと、「データをつなぐ(MCP)」ことでは、リスクの種類が異なります。画面操作型の場合、AIが意図せず画面上の機密情報(個人情報やパスワードなど)を読み取ってしまうリスクがあります。一方、API型の場合は、権限設定を誤るとAIがデータベース全体にアクセスできてしまうリスクがあります。どちらの規格を採用するにせよ、人間がどこまで承認を行うか(Human-in-the-loop)の設計が不可欠です。
3. プラットフォーム依存のリスク管理
GoogleのアプローチはAndroid端末への依存を強める可能性があります。社用端末としてiPhone(iOS)を採用している日本企業は多いため、OSに依存しないMCPのようなオープンスタンダードな技術動向を注視しておく必要があります。特定のベンダーにロックインされることを避け、自社の業務フローがどの技術規格と相性が良いか、PoC(概念実証)を通じて検証する段階に来ています。
