21 1月 2026, 水

「生成」から「自在な編集」へ。Luma AI新機能に見る、動画生成AIの実務適用に向けた進化

動画生成AIのLuma AIが、自然言語による動画編集機能「Ray 3 Modify」を発表しました。これまで「一発生成」の運任せ要素が強かった動画AIにおいて、特定のオブジェクトの除去や置換、背景の変更などを指示できる機能は、ビジネス利用における最大の課題であった「制御可能性(Controllability)」を大きく前進させるものです。本稿では、この新機能が示唆するクリエイティブワークフローの変化と、日本企業が直面する法的・実務的課題について解説します。

「作り直し」ではなく「修正」が可能に:動画AIのフェーズシフト

Luma AIの動画生成モデル「Dream Machine」に追加された「Ray 3 Modify」は、プロンプト(指示文)を用いて生成済みの動画を後から編集できる機能です。具体的には、映像内の特定のオブジェクトを消去・置換したり、キャラクターのディテールを調整したり、背景をバーチャルセットに差し替えたりといった操作が可能になります。

これまでの動画生成AIは、一度生成された映像に不自然な点(ハルシネーションによる歪みや、意図しない物体の出現など)があっても、修正するためにはプロンプトを調整して「再生成」するしかありませんでした。しかし、再生成は「ガチャ」のようなランダム性を伴うため、良かった部分まで変わってしまうジレンマがありました。今回の機能は、静止画生成における「インペインティング(一部修正)」に近い操作を動画で行えるようにするものであり、実務に耐えうる「ツール」への進化を象徴しています。

日本企業のクリエイティブ現場におけるインパクト

日本国内の広告・映像制作の現場では、慢性的な人手不足と短納期化が進んでいます。今回の技術は、以下のようなシーンで業務効率化に寄与する可能性があります。

  • 広告クリエイティブのA/Bテスト高速化: 人物はそのままに、背景や持っている商品をAIで差し替えることで、低コストで複数のバリエーションを作成・検証できる。
  • ポストプロダクションの省力化: 撮影後に写り込んだ不要な看板や人物を、VFX(視覚効果)エンジニアの手作業ではなく、AIへの指示だけで消去する。
  • 商品プロモーション動画のローカライズ: グローバル展開するメーカーが、映像内のテキストや商品パッケージを仕向け国に合わせて変更する。

特に、日本の商習慣では「細部へのこだわり」が品質として求められます。「全体的には良いが、ここの看板だけ消してほしい」といったクライアントの要望に対し、これまでの生成AIは無力でしたが、Modify機能はそのラストワンマイルを埋める可能性を秘めています。

著作権法と肖像権:日本企業が注意すべきリスク

技術的な可能性が広がる一方で、法務・コンプライアンス面でのリスク管理はより複雑になります。特に「既存の動画をAIで改変する」というプロセスにおいて、以下の点に注意が必要です。

まず、著作権(翻案権・同一性保持権)の問題です。自社で撮影した素材や、権利処理済みのストック素材をベースにAIで加工する場合は問題ありませんが、他社の著作物やネット上の動画を安易に取り込んで改変することは、日本の著作権法上、権利侵害のリスクが高まります。

次に、肖像権・パブリシティ権です。実在の人物(タレントや社員)が映っている動画に対し、AIで表情を変えたり、行動を改変したりすることは、契約範囲外の利用や人格権の侵害とみなされる可能性があります。生成AIに関する契約条項やガイドラインが未整備な企業も多いため、既存の出演契約で「AIによる改変」が許容されているか確認する必要があります。

日本企業のAI活用への示唆

動画生成AIは「実験的なおもちゃ」から「実務ツール」へと移行しつつあります。この変化を踏まえ、企業は以下の3点を意識して導入を検討すべきです。

1. 生成プロセスよりも「修正プロセス」の設計
「ゼロからAIで作る」ことだけに固執せず、既存の映像資産や撮影素材をAIで「どう加工・修正するか」という視点を持つことで、活用の幅が広がります。コストのかかる再撮影をAI編集で回避するフローは、直近のROI(投資対効果)が出やすい領域です。

2. クオリティ管理と「人間による仕上げ」の定義
現在の技術でも、フレーム間の整合性が取れずに映像がチラつくなどの課題は残っています。AIのアウトプットを最終成果物とするのではなく、「ドラフト(下書き)」や「素材」として扱い、最終的な品質保証は人間のクリエイターが行うという役割分担を明確にすることが、日本の高い品質基準を満たす鍵となります。

3. ガバナンスのアップデート
画像生成AIだけでなく、動画編集AI特有のリスク(ディープフェイク作成への悪用や、元動画の権利関係)に対応したガイドライン策定が急務です。特に、外部のAIサービスに社外秘の映像データをアップロードする際の情報セキュリティ対策は、徹底する必要があります。

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