生成AIの活用は、単なるチャットボットから、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」へと進化しています。しかし、2025年第4四半期に見込まれる攻撃事例の増加は、2026年に向けた新たなセキュリティリスクの予兆と言えます。本記事では、AIエージェント特有の脅威と、日本企業がとるべきガバナンス・セキュリティ対策について解説します。
「対話」から「行動」へ:AIエージェントが変えるリスクの質
これまでの生成AI(LLM)活用は、主に人間が情報を問いかけ、AIが回答するという「対話」が中心でした。しかし、現在急速に普及が進んでいる「AIエージェント」は、人間の指示に基づき、Web検索、社内データベースへのアクセス、APIを介したシステム操作などを「自律的に」行います。
この「行動(Action)」能力こそが、AIエージェントの最大の価値であり、同時に最大のリスク要因でもあります。従来のサイバー攻撃が情報の窃取を主目的としていたのに対し、AIエージェントに対する攻撃は、AIに誤った判断をさせ、不正な送金、データの削除、メールの送信といった「実害のある行動」を引き起こさせる可能性があるからです。
2025年Q4に見る予兆:拡大する「アタックサーフェス」
セキュリティ業界の観測では、2025年第4四半期(10-12月)頃より、初期のAIエージェントを標的とした攻撃が顕在化し始めると予測されています。これは2026年の本格的なリスク拡大へのシグナルです。
ここで重要となるキーワードが「アタックサーフェス(攻撃対象領域)」の拡大です。AIエージェントが外部のWebサイトを閲覧したり、サードパーティのプラグインを利用したりすることで、攻撃者が介入できる接点が増加します。例えば、攻撃者がWebサイトに人間には見えない特殊な命令文(プロンプト)を埋め込み、それを読み込んだAIエージェントが社内システムに対して攻撃者の意図した操作を実行してしまう「間接的プロンプトインジェクション」などが現実的な脅威となります。
日本企業における実装リスクと商習慣の壁
日本国内においても、人手不足解消や業務効率化の切り札として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と生成AIを組み合わせたエージェント開発が進んでいます。しかし、ここに日本特有の課題があります。
多くの日本企業では、システムの責任分界点が曖昧になりがちです。SaaSを組み合わせたAIエージェントを導入する際、どの権限でAIが動作するのか(例:部長の権限でAIが承認ワークフローを操作できるのか)という設計が甘い場合、AIの乗っ取りが組織全体の重大なインシデントに直結します。また、現場の判断で「便利なツール」として勝手に導入される「シャドーAI」がエージェント化した場合、情シスの監視外で自律的に外部と通信を行うリスクも高まります。
AIガバナンスと「Human-in-the-loop」の再定義
AIエージェントの時代において、ファイアウォールや従来型のウイルス対策ソフトだけでは防御しきれません。AIの入出力を監視し、不適切な命令や挙動をブロックする「AIガードレール」の導入が必須となります。
また、日本企業が得意とする「現場のチェック機能」をシステムに組み込むことも有効です。重要な意思決定や外部へのデータ送信アクションに対しては、必ず人間が最終確認を行う「Human-in-the-loop(人間参加型)」のプロセスを強制する設計が求められます。完全自動化を目指すあまり、安全装置を外してしまうことは避けなければなりません。
日本企業のAI活用への示唆
2026年に向けてAIエージェントの普及は不可避ですが、セキュリティのアプローチを根本から見直す必要があります。意思決定者や実務担当者は以下の点を考慮してください。
- 権限の最小化(Least Privilege):AIエージェントには、タスク遂行に必要最小限の権限とAPIアクセス権のみを付与し、管理者権限での動作は避けること。
- 行動の可視化とログ管理:AIが「なぜその行動をとったのか」を後から追跡できるよう、プロンプトと実行ログを詳細に記録・監査できる体制を整えること。
- 間接攻撃への備え:AIが読み込む外部データ(メール、Web、ドキュメント)はすべて「信頼できない入力」として扱い、サニタイズ(無害化)や検証のプロセスを挟むこと。
- 組織的なリスク受容レベルの合意:どこまでの自動化を許容し、どこから人間が介入するか、経営層と現場でリスク許容度のコンセンサスを形成しておくこと。
AIエージェントは強力な武器ですが、それは諸刃の剣です。利便性とセキュリティのバランスを見極め、技術的な防御だけでなく、運用ルールを含めた包括的なガバナンスを構築することが、2026年以降の競争力を左右するでしょう。
