21 1月 2026, 水

「対話」から「自律実行」へ:ServiceNowに見るエンタープライズAIの次なる潮流

生成AIの活用は、単なるチャットボットによる質疑応答から、複雑な業務を完遂する「AIエージェント」の時代へと急速に移行しつつあります。ServiceNowが掲げる「エンタープライズ・ブレイン(企業の頭脳)」という構想を端緒に、日本企業が直面するAI活用の次なるフェーズと、それに伴うガバナンスや組織変革の要諦を解説します。

AIエージェント:チャットボットとの決定的な違い

2023年から2024年にかけての生成AIブームは、主に「Copilot(副操縦士)」やチャットボットの形での導入が中心でした。しかし、ServiceNowをはじめとする主要なエンタープライズ・プラットフォーマーは現在、その先にある「AIエージェント」へと舵を切っています。

従来のチャットボットが「人間が質問し、AIが情報を提示する」という受動的な支援にとどまっていたのに対し、AIエージェントは「人間が目標(ゴール)を与え、AIが自律的にツールを操作して業務を完遂する」点が大きく異なります。例えば、「先月のA社の請求書を探して」ではなく、「A社の未払い請求書を確認し、経理システムで支払い処理のドラフトを作成した上で、担当者に承認依頼を飛ばして」といった一連のワークフローを実行可能にするものです。

「エンタープライズ・ブレイン」が解消する組織のサイロ

元記事にある「Enterprise Brain(企業の頭脳)」という概念は、単にAIが賢くなることを意味するだけではありません。これは、組織内に散在するデータやシステムをAIが横断的に理解し、部門間の壁(サイロ)を越えてアクションを起こせる状態を指します。

日本企業の多くは、部署ごとに異なるITシステムやデータベース運用を行っている「縦割り」構造が顕著です。AIエージェントが企業の「頭脳」として機能するためには、IT部門(ITSM)、人事、カスタマーサービス、営業などのデータが統合的にアクセス可能である必要があります。ServiceNowのようなプラットフォームが注目される背景には、こうしたサイロ化した業務プロセスを、AIを介してシームレスに繋ぎ合わせたいという企業の切実なニーズがあります。

自律性の向上と新たなリスク管理

AIが自律的にアクション(システム操作やメール送信など)を行えるようになると、業務効率は飛躍的に向上しますが、同時にリスクの質も変化します。AIが誤った判断でシステム設定を変更したり、不適切な内容を顧客に送信したりする「暴走」のリスクです。

特に日本の商習慣においては、正確性とアカウンタビリティ(説明責任)が強く求められます。「AIが勝手にやった」という言い訳は通用しません。したがって、AIエージェントの導入においては、AIにどこまでの権限を与えるかという「権限管理(RBAC)」や、AIの行動履歴を全て記録する「監査ログ」の整備が、従来のシステム導入以上に重要になります。

日本企業のAI活用への示唆

グローバルな「AIエージェント」化の流れを踏まえ、日本企業は以下の3つの視点で準備を進めるべきです。

1. 「Human-in-the-loop(人間による確認)」のプロセス設計
いきなり全自動化を目指すのではなく、AIが下書きや準備を行い、最終的な「承認(Approve)」ボタンは人間が押すというプロセスを必ず組み込むべきです。これはリスク管理だけでなく、日本の「稟議」や「確認」の文化とも親和性が高く、現場の安心感を醸成します。

2. 構造化データとナレッジの整備
AIエージェントが正しく動くためには、業務マニュアルや過去のトラブルシューティング履歴などの「ナレッジ」が整理されている必要があります。日本企業に多い「暗黙知」や「阿吽の呼吸」による業務遂行は、AIにとって最大の障壁です。業務フローの標準化とデジタル化は、AI導入の前提条件となります。

3. 小規模かつ完結した業務からの適用
全社的な「頭脳」を目指すといっても、最初から巨大なプロジェクトにする必要はありません。例えば「パスワードリセットの自動化」や「休暇申請の処理」など、ルールが明確でリスクが限定的な領域からAIエージェントを適用し、成功体験とガバナンスのノウハウを蓄積することが、結果として最短の近道となります。

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