28 2月 2026, 土

経営層が直視すべきLLMセキュリティの「新常識」:安全なAI活用のためのプレイブック策定

多くの企業が生成AIの導入を急ぐ中、CIO(最高情報責任者)や技術責任者にとって最大の懸念事項はセキュリティです。本記事では、グローバルな視点で提唱される「LLMセキュリティ・プレイブック」の重要性を踏まえ、日本企業が組織としてAIのリスク管理と活用推進を両立させるための実務的なアプローチを解説します。

従来のセキュリティ対策だけでは不十分な理由

企業システムにおける従来のセキュリティ対策は、主にネットワーク境界の防御やアクセス権限の管理に重点が置かれていました。しかし、大規模言語モデル(LLM)を業務プロセスやプロダクトに組み込む場合、これだけでは不十分です。LLMには、悪意ある指示を入力してモデルの挙動を操作する「プロンプトインジェクション」や、学習データからの意図しない情報漏洩、あるいは不適切な回答を生成させる攻撃など、AI特有の脆弱性が存在するためです。

グローバルなセキュリティ動向を見ても、OWASP(Open Worldwide Application Security Project)が「LLMアプリケーションのトップ10セキュリティリスク」を発表するなど、AIモデルそのものに対する攻撃手法への警戒感が高まっています。日本企業においても、既存のセキュリティ基盤に加え、入力データのフィルタリングや出力内容の監査といった、AIレイヤー固有の対策(ガードレール)を実装することが急務となっています。

「禁止」から「管理された活用」へ:プレイブックの重要性

セキュリティリスクを懸念するあまり、社内での生成AI利用を一律に禁止している組織も少なくありません。しかし、これは業務効率化やイノベーションの機会損失を招くだけでなく、従業員が個人のデバイスやアカウントで無許可のAIツールを利用する「シャドーAI」のリスクを助長する可能性があります。管理されていない環境で社内データが外部サービスに入力されることは、情報漏洩の大きな要因となります。

CIOやIT管理者に求められるのは、単なる禁止ではなく、安全に活用するための明確な「プレイブック(運用手順書)」の策定です。具体的には、入力してよいデータの区分(公開情報、社外秘、個人情報など)の明確化、利用可能なツールの指定、そしてインシデント発生時の対応フローなどを定めます。明確なルールがあれば、現場のエンジニアやビジネス担当者は、コンプライアンス違反を恐れて萎縮することなく、安心してAI活用に取り組むことができます。

日本企業の組織文化に合わせたガバナンス構築

日本企業では、現場の改善活動やボトムアップの提案が強みとなる一方で、責任の所在が曖昧になりがちという側面もあります。AIガバナンスにおいては、法務、セキュリティ、事業部門、IT部門が連携した横断的なチーム(CoE:Center of Excellence)を組成し、組織全体で統一された指針を持つことが効果的です。

特に日本では、個人情報保護法や著作権法の改正に伴い、AI学習データの取り扱いや生成物の権利関係について独自の解釈が必要なケースが増えています。また、SIer(システムインテグレーター)への依存度が高い商習慣においては、外部ベンダーが提供するAIソリューションが自社のセキュリティポリシーに準拠しているか、学習データがどのように扱われるかを確認するプロセス(サプライチェーン・リスク管理)も重要になります。丸投げにするのではなく、発注側がリスク受容の判断基準を持つことが不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のテーマであるLLMセキュリティの観点から、日本企業がとるべきアクションは以下の通りです。

  • 防御の多層化:従来のインフラセキュリティに加え、LLM特有の攻撃(プロンプトインジェクション等)を防ぐための入出力フィルタリングや監視ツールを導入する。
  • ガイドラインの具体化:抽象的な「注意喚起」にとどまらず、業務レベルで判断可能な「プレイブック」を策定し、シャドーAIを防ぎつつ活用を促進する。
  • 責任分界点の明確化:外部のLLMサービスやAPIを利用する際、データの二次利用(学習への利用)の有無や、障害・漏洩時の責任範囲を契約レベルで確認する。
  • 継続的な教育:技術の進化が速いため、定期的に従業員のリテラシー教育を行い、「AIは誤った情報を出力しうる」という前提での利用を徹底させる。

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