28 2月 2026, 土

「従業員1人につき100体のAIエージェント」が意味するもの:Zscaler CEO発言から読み解く自律型AIとセキュリティの未来

米セキュリティ大手ZscalerのCEO、Jay Chaudhry氏が「将来、従業員1人あたり50〜100体のAIエージェントを持つことになる」と予測しました。単なるチャットボットから、タスクを自律的に遂行する「エージェント」への進化は、企業の生産性を劇的に変える可能性がある一方、かつてないセキュリティリスクとガバナンスの課題を突きつけます。本稿では、この発言を起点に、AIエージェント時代の企業システムのあり方と、日本企業が備えるべきリスク対応について解説します。

チャットから「エージェント」へ:AIの役割転換

生成AIのトレンドは、人間が質問してAIが答える「対話型(チャットボット)」から、AIが目標に向けて自律的にツールを使いこなしタスクを完遂する「エージェント型」へと急速にシフトしています。ZscalerのCEO、Jay Chaudhry氏による「従業員1人あたり50〜100体のAIエージェント」という予測は、一見突飛に聞こえるかもしれません。しかし、これは一つの巨大な汎用AIがすべてを行うのではなく、特定のマイクロタスク(日程調整、経費精算、コードレビュー、ログ監視など)に特化した専門エージェントが無数に稼働する未来を示唆しています。

日本企業においても、人手不足が深刻化する中で、AIエージェントは「デジタルレイバー(仮想労働者)」として大いに期待されています。しかし、単にツールを導入すればよいわけではなく、それらが組織内でどのように振る舞うかを管理する設計思想が求められます。

急増する「マシン・アイデンティティ」とセキュリティリスク

Chaudhry氏の発言の背景には、セキュリティベンダーとしての強い危機感があります。従業員が1,000人の企業で、もし1人あたり100体のエージェントが稼働すれば、ネットワーク上には10万の「アクティブなユーザー(エージェント)」が存在することになります。これらエージェントは、社内の機密データにアクセスし、外部サービスと通信し、決済処理さえ行う可能性があります。

ここで最大のリスクとなるのが、「誰が(どのアカウントが)何をしたか」の追跡と制御です。これまでのセキュリティは「人間」の認証が中心でしたが、今後はAIエージェントという「マシン・アイデンティティ」の管理が不可欠になります。もし1体のエージェントが乗っ取られたり、誤作動を起こして機密情報を社外に送信し続けたりした場合、それを即座に検知し、権限を剥奪する仕組みが必要です。日本企業が重視する「情報漏洩対策」の観点からも、エージェントの通信監視とゼロトラスト(性悪説に基づくセキュリティ)の徹底は避けて通れません。

日本企業特有の課題:レガシーシステムと責任の所在

AIエージェントの実用化において、日本企業は特有の壁に直面する可能性があります。一つは技術的な壁です。自律型エージェントが活躍するには、社内システムがAPIで連携できるモダンな環境である必要があります。しかし、多くの日本企業では画面操作を前提としたレガシーシステムや、紙・ハンコ文化の名残である非構造化データが業務の中心にあり、エージェントが「手出しできない」領域が広く残っています。

もう一つは「責任の所在」です。エージェントが誤って誤発注を行ったり、不適切なメールを顧客に送ったりした場合、その責任は誰が負うのでしょうか。開発ベンダーか、利用した従業員か、あるいは管理職か。日本の組織文化では、ミスに対する許容度が低く、責任分界点が曖昧なままではエージェントの導入が進まない、あるいは過剰な承認フローによってエージェントのスピード感が殺されるリスクがあります。

日本企業のAI活用への示唆

「1人100エージェント」時代を見据え、意思決定者やエンジニアは以下の準備を進めるべきです。

  • エージェント管理基盤の整備:野良エージェント(Shadow AI)の乱立を防ぐため、企業公認のエージェントを登録・管理し、利用ログを監査できるプラットフォームを検討してください。
  • ゼロトラストの拡張:人間だけでなく、AIエージェントにも最小特権の原則を適用する必要があります。エージェントがアクセスできるデータ範囲を厳密に制限するセキュリティ設計が不可欠です。
  • 業務プロセスのAPI化:AIが操作できるよう、社内システムのAPI化やデータ構造化を進めることが、将来的な「デジタルレイバー」活用の前提条件となります。
  • 「AI監督者」という役割の定義:従業員は、自ら作業する「プレイヤー」から、複数のAIエージェントに指示出しを行い、その成果物をチェックする「マネージャー」へと役割が変わります。評価制度や教育も、このシフトに合わせて再定義する必要があります。

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