27 2月 2026, 金

「AIは計算が苦手」という不都合な真実:LLMを計数業務に活用する際のリスクと、日本企業が採るべき技術的アプローチ

「コンピュータなのだから計算は得意なはずだ」という直感は、大規模言語モデル(LLM)においては通用しません。最新のLLMであっても、単純な算数でさえ「もっともらしい誤答」を出力することがあります。本記事では、なぜ生成AIが計算に失敗するのかそのメカニズムを解説し、日本の商習慣において求められる正確性を担保するための現実的な解決策とアーキテクチャ設計について論じます。

LLMは「計算」しているのではなく「物語」を紡いでいる

生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)を業務に導入する際、多くの担当者が直面する意外な落とし穴があります。それは「AIが算数を間違える」という現象です。収益予測や請求書の集計、あるいは簡単な割引計算さえも、堂々と間違った数字を出力することがあります。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。根本的な理由は、LLMが「論理演算エンジン」ではなく「確率的な単語予測エンジン」だからです。LLMにとって「1,000 + 200 =」という入力に対し、「1,200」と答えるのは、計算の結果ではなく、「この文脈では次に1,200という文字列が来る確率が最も高い」と学習データから予測しているに過ぎません。

これをForbesの記事では「AIアシスタントが計算するとき、それは数学をしているのではなく、説得力のある物語を語っているのだ」と表現しています。つまり、文脈として自然であれば、数字の整合性よりも文章の流暢さを優先してしまう特性があるのです。

日本の実務における「ハルシネーション」のリスク

日本企業において、この特性は無視できないリスクとなります。日本のビジネス現場、特に経理・財務、受発注処理などのバックオフィス業務では、「1円のズレ」も許されない厳密さが求められます。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応が進む中、AIによる自動化への期待は高まっていますが、LLM単体に計算を任せることは、コンプライアンス上の重大な欠陥になり得ます。

例えば、カスタマーサポートのチャットボットが、複雑なプランの組み合わせによる月額料金を顧客に提示するシーンを想像してください。AIが自信満々に誤った金額を回答し、後から「あれはAIの間違いでした」と訂正することは、日本企業のブランド信頼度を著しく毀損します。これを「AIの幻覚(ハルシネーション)」として片付けるには、ビジネス上の代償が大きすぎます。

解決策:AIに「電卓」を持たせるアーキテクチャ

では、LLMは計数業務に使えないのでしょうか。答えは「No」です。適切なアーキテクチャを採用すれば、LLMは極めて有用なツールになります。その鍵となるのが「Function Calling(関数呼び出し)」や「Tool Use」と呼ばれる技術です。

人間が複雑な計算をする際に暗算ではなく電卓やExcelを使うように、LLMにも外部ツールを使わせる構成にします。具体的には、以下のようなプロセスを構築します。

  • 意図理解:ユーザーが「売上の合計から10%の割引をして」と指示したことをLLMが理解する。
  • ツール実行:LLM自身が計算するのではなく、Pythonスクリプトや計算API(電卓ツール)に対して「計算式」を渡す。
  • 回答生成:外部ツールが計算した「正確な結果」を受け取り、LLMが自然な文章として回答を生成する。

このアプローチにより、LLMの得意な「言語理解・文脈把握」と、コンピュータ本来の得意分野である「正確な計算」を切り分けて連携させることが可能になります。RAG(検索拡張生成)システムの中に、こうした計算モジュールを組み込む動きは、現在最も実用的な解の一つです。

日本企業のAI活用への示唆

LLMの計算能力の限界と、それを補う技術的アプローチを踏まえ、日本企業のリーダーや実務者は以下の点を意識してAI活用を進めるべきです。

1. 「餅は餅屋」のハイブリッド構成を前提にする

「高性能なモデルを使えば計算も正確になるはずだ」という期待は捨てるべきです。LLMはオーケストレーター(指揮者)としての役割に徹させ、計算、データベース検索、社内規定の参照といったタスクは、それぞれ専用の外部ツールやAPIに委譲するシステム設計を行ってください。特に金融・製造・物流など数値の正確性が生命線となる業界では必須の要件です。

2. プロセスの中に「検証」を組み込む

AIが出力した数値に対する人間のチェック(Human-in-the-loop)はもちろん重要ですが、それ以前にシステム側での検証も可能です。例えば、AIが算出した見積もり金額に対して、ルールベースのプログラムで再計算を行い、乖離があればアラートを出すといった二重チェックの仕組みを導入することで、完全自動化のリスクを低減できます。

3. 生成AIの「不得意」を組織知として共有する

経営層や現場のユーザーに対し、「AIは万能ではない」という啓蒙を行うことが重要です。特に「言葉巧みに嘘をつく」というLLMの特性を理解していないと、現場の混乱を招きます。導入効果を最大化するためには、AIが担当すべき領域(要約、翻訳、抽出、ドラフト作成)と、従来型システムが担当すべき領域(計算、確定処理)を明確に区分けするガバナンスが求められます。

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