Googleは将来のAndroidデバイス(Pixel 10、Galaxy S26シリーズ等)において、Geminiが「マルチステップタスク」を処理可能になるビジョンを示しました。これは、AIが単なる質問応答や要約を行うアシスタントから、ユーザーに代わって複雑な実務フローを完遂する「自律型エージェント」へと進化する重要な転換点を意味します。
「チャットボット」から「エージェント」への進化
Googleが発表したGeminiの新たな方向性は、生成AIの主戦場が「テキスト生成」から「アクション実行」へと移行していることを明確に示しています。「マルチステップタスク」とは、単一の命令(プロンプト)に対して、AIが自律的に複数の手順を計画し、異なるアプリやサービスを横断して操作を行う能力を指します。
例えば、「来週の出張手配をして」という指示に対し、従来のAIは一般的な手順を回答するだけでした。しかし、マルチステップタスクに対応したGeminiは、カレンダーで空き状況を確認し、フライトとホテルを検索・予約し、経費精算アプリに下書きを作成し、関係者にメールを送るといった一連の操作を、ユーザーの介在を最小限にして実行しようとします。
ハードウェアとオンデバイスAIの重要性
言及されている「Pixel 10」や「Galaxy S26」といった将来のデバイス名からは、この機能がハードウェアの進化と密接に関わっていることが読み取れます。複雑な推論とプライバシー保護を両立させるためには、クラウドへのデータ送信を最小限に抑え、端末内(オンデバイス)で処理を完結させる能力が不可欠だからです。
日本企業において、スマートフォンは重要な業務端末です。しかし、顧客情報や社外秘データをクラウド上のLLM(大規模言語モデル)に送信することへの抵抗感は依然として根強いものがあります。高度なエージェント機能がオンデバイスで、かつOSレベルでセキュアに動作するようになれば、金融や医療、製造現場など、機密性が求められる領域でのモバイルAI活用が一気に加速する可能性があります。
「GUIの操作」から「意図の伝達」へ変わるUX
この変化は、企業のアプリ開発やサービス設計にも大きな影響を与えます。これまでは、使いやすい画面(UI/UX)を作ることが最優先でした。しかし、AIエージェントがユーザーの代わりに操作を行うようになれば、アプリは「人間が見て操作しやすいこと」に加え、「AIが構造を理解し、操作可能であること」が求められるようになります。
特に日本国内では、独自の商習慣に合わせた複雑な業務アプリや、「スーパーアプリ」化した多機能アプリが多く存在します。これらがOS標準のAIエージェントと連携できなければ、ユーザーにとって「AIで操作できない不便なアプリ」と見なされるリスクが生じます。
リスクと課題:AIによる「誤操作」の責任
一方で、実務適用には課題も残ります。文章の誤りは人間が読めば気づけますが、AIが勝手に「誤った商品を注文した」「間違った宛先にファイルを送信した」といった行動のミス(ハルシネーションによる誤作動)は、ビジネスにおいて致命的になり得ます。
したがって、マルチステップタスクの導入においては、AIに全権を委ねるのではなく、重要なアクションの直前に人間による承認プロセス(Human-in-the-loop)をどう組み込むかが、ガバナンス上の最重要課題となります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のGoogleの発表を受け、日本の経営層やプロダクト担当者は以下の点に着目して準備を進めるべきです。
- サービス連携のAPI化を急ぐ:自社サービスや社内システムが、AIエージェントから呼び出しやすいAPIやインターフェースを備えているか再確認してください。GUI(画面)に依存しない操作体系の整備は、将来的なAIエコシステムへの参加条件となります。
- モバイルAIガバナンスの策定:従業員の端末上のAIが、カレンダーやメールの内容を読み取り、勝手に外部サービスを予約・決済してしまうリスクを想定する必要があります。「どこまでAIに任せるか」という権限規定や、MDM(モバイルデバイス管理)による制御ポリシーの検討が必要です。
- 「日本的」な文脈の考慮:日本のビジネスには「根回し」や「阿吽の呼吸」といった、データ化されにくいコンテキストが存在します。AIエージェントがこれらを無視して機械的にタスク処理を行った場合、取引先との摩擦を生む可能性があります。AIの自動化範囲を明確にし、対人コミュニケーションのラストワンマイルは人間が担うという棲み分けが、当面は重要になるでしょう。
