24 2月 2026, 火

レガシーコードと生成AI:「自動翻訳」の幻想を超えた、実務的なモダナイゼーション戦略

「2025年の崖」への対策として、COBOLなどのレガシーコードを生成AIで現代的な言語へ自動変換する試みが注目を集めています。しかし、単なる「コードの翻訳」では根本的な解決にはなりません。本記事では、IBMの指摘する視点をベースに、日本企業の複雑なレガシーシステムにおいて、AIをどのように活用し、リスクを管理しながらモダナイゼーションを進めるべきか解説します。

「言語の置き換え」と「システムの刷新」はイコールではない

生成AIの登場により、「COBOLで書かれた数百万行のコードを、AIに読み込ませてJavaやPythonに変換すればよい」という楽観的な議論が一部で見られます。しかし、実務的な観点から言えば、これは非常に危険な落とし穴です。自然言語の翻訳(英語から日本語へ)と、プログラミング言語の変換は、似て非なるものです。

最大の問題は、古いコードを「行単位」や「関数単位」で忠実に翻訳しても、それは「現代的な言語で書かれた、古い構造のままのスパゲッティコード」を生み出すだけに終わる可能性が高いという点です。これを「Javaで書かれたCOBOL」と揶揄することもありますが、可読性が低く、保守が困難な状態は変わりません。AIによる構文の変換は容易ですが、ビジネスロジックの再構築やアーキテクチャの刷新は、依然として高度なエンジニアリングが必要な領域です。

日本企業が直面する「仕様書不在」の壁とAIの役割

日本の多くの企業、特に金融や製造、公共インフラなどの分野では、数十年稼働し続けているメインフレーム上のシステムが数多く残存しています。これらのシステムの最大のリスクは、開発当時の担当者が退職し、ドキュメント(仕様書)が現行のコードと乖離している、あるいは存在しないという「ブラックボックス化」です。

ここでこそ、生成AIの強みが発揮されます。コードの「書き換え(翻訳)」の前段階として、コードの「理解(解析)」にAIを活用するアプローチです。LLM(大規模言語モデル)は、複雑なレガシーコードを読み込み、そこに含まれるビジネスロジックや処理フローを自然言語で解説することに長けています。つまり、失われた仕様書をAIと対話しながら逆生成し、現状の資産を可視化することに価値を置くのです。これにより、若手エンジニアでもレガシーシステムの全容を把握しやすくなり、安全なモダナイゼーション計画を立てることが可能になります。

ハルシネーションリスクと品質保証の重要性

AIを活用したコード変換や解析において、常に意識すべきは「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクです。AIが生成したコードが一見正しく動作するように見えても、特定ののエッジケース(極端な条件下での動作)で予期せぬ挙動をする可能性があります。日本の商習慣において、基幹システムの障害は企業の信頼を大きく損なう重大なインシデントです。

したがって、AIが出力したコードや解説を鵜呑みにせず、必ず人間がレビューし、厳格なテストを行うプロセス(Human-in-the-Loop)が不可欠です。AIはあくまで「優秀な副操縦士」であり、最終的な品質責任は人間が負うというガバナンス体制を構築する必要があります。テスト自動化ツールの導入や、AIによるテストケース生成など、品質保証プロセス自体にもAIを組み込むことで、効率と安全性のバランスを取ることが求められます。

日本企業のAI活用への示唆

以上の議論を踏まえ、日本企業がレガシーマイグレーションにおいてAIを活用する際の要点は以下の通りです。

  • 「全自動変換」を目指さない:AIによるコード変換はあくまで補助手段です。そのまま本番環境に適用するのではなく、リファクタリング(内部構造の整理)の第一歩として捉えてください。
  • 「理解」への投資を優先する:コードを変換する前に、AIを使って現状のシステム仕様を再定義・文書化することに注力してください。これにより、属人化の解消と技術継承が進みます。
  • 段階的なアプローチ:ビッグバン的な全面刷新はリスクが高すぎます。AIを活用してシステム間の依存関係を特定し、疎結合なマイクロサービスへと段階的に移行する戦略が現実的です。
  • ガバナンスの強化:AIが生成したコードに対するレビュー体制、知的財産権の取り扱い、セキュリティチェックなど、組織的なルール作りを先行して進めてください。

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