24 2月 2026, 火

「ChatGPTは1クエリに大量の水を使う」説をサム・アルトマンが否定――AIの環境負荷と日本企業の向き合い方

OpenAIのCEOサム・アルトマン氏が、ChatGPTの推論コストに関する極端な噂を否定しました。しかし、生成AIの普及に伴う電力・水資源の消費は、グローバルなESG課題として無視できない現実です。本記事では、このニュースを起点に、AIの環境負荷に関する事実関係を整理し、日本の実務者が意識すべき「コストと環境のバランス」について解説します。

「1クエリに17ガロンの水」は真実か

生成AIの急速な普及に伴い、データセンターの環境負荷に対する懸念が高まっています。最近、インターネット上で「ChatGPTはたった1回のクエリ(質問)処理に約17ガロン(約64リットル)もの水を消費している」という説が拡散されました。これに対し、OpenAIのサム・アルトマンCEOは「完全に非常識(totally insane)な主張だ」と強く否定しました。

この「17ガロン」という数字は、おそらくAIモデルの「学習(Training)」にかかった膨大な水消費量を、稼働後の個々のクエリに強引に割り当てた誤った計算か、あるいは極端な前提条件に基づく試算である可能性が高いでしょう。しかし、アルトマン氏が指摘するように、AIのエネルギー効率を論じる際は、人間が知識を得るために要する20年分の生活エネルギーと比較するなど、マクロな視点も必要です。

重要なのは、極端な数字に踊らされることではなく、「推論(Inference)時にも確実にリソースは消費される」という事実を、ビジネスのコスト構造や環境負荷としてどう捉えるかです。

学習と推論:コスト構造の違いを理解する

AIの環境負荷を考える際、エンジニアや意思決定者は「学習」と「推論」を分けて考える必要があります。

  • 学習(Training):一度きりの莫大な計算リソース投入。巨大な電力と冷却水を消費しますが、一度モデルが完成すれば頻繁には発生しません。
  • 推論(Inference):ユーザーがAIを利用するたびに発生する計算。1回あたりの負荷は学習に比べれば微々たるものですが、世界中で何億回も実行されるため、累積的な負荷は無視できません。

日本企業が生成AIを導入する場合、主な関心事は「推論コスト」になります。APIのトークン課金は、まさにこの推論リソースへの対価です。不必要に巨大なモデルを単純なタスクに使用することは、金銭的コストの無駄であるだけでなく、電力効率の観点からも「過剰スペック」と言えます。

日本企業におけるESGとAI活用のバランス

日本国内では、プライム市場上場企業を中心に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく開示や、サプライチェーン全体(Scope 3)でのCO2排出量削減が求められています。クラウドベンダーやAIプロバイダーのデータセンターが消費する電力も、将来的には企業の「Scope 3」の一部として厳しく問われる可能性があります。

また、日本は電力コストが決して安くない国です。オンプレミスやプライベートクラウドでLLM(大規模言語モデル)を運用する場合、GPUサーバーの冷却コストや電気代は直接的なP/L(損益計算書)へのインパクトとなります。「環境に配慮する」ことは、結果として「ランニングコストを最適化する」ことと同義になりつつあります。

「適材適所」のモデル選定がカギ

環境負荷とコストを適正化するための現実的な解は、SLM(小規模言語モデル)の活用アーキテクチャの工夫です。

すべての業務にGPT-4のような「超巨大モデル」は必要ありません。例えば、社内文書の要約や定型的な日報作成であれば、よりパラメータ数が少なく軽量なモデル(数10億〜数100億パラメータ級)で十分な精度が出せます。また、RAG(検索拡張生成)を組み合わせることで、モデル自体の知識量に頼らずとも、正確な回答を引き出すことが可能です。

「大は小を兼ねる」の発想で巨大モデルを使い続けるのではなく、タスクの難易度に応じてモデルを使い分ける「AIオーケストレーション」の実装が、日本のエンジニアには求められています。

日本企業のAI活用への示唆

今回のアルトマン氏の発言と背景にある議論から、日本のAI導入担当者が持ち帰るべき示唆は以下の通りです。

  • 極端な情報への冷静な対処:AIに関する「脅威論」や極端な数字はSNSで拡散されがちです。ベンダーの公式な環境レポート(サステナビリティレポート)や技術論文を参照し、一次情報に基づいて判断するリテラシーが必要です。
  • コストと環境の同時最適化:「環境負荷が高い=無駄な計算リソースを使っている」と捉えてください。プロンプトエンジニアリングでのトークン削減や、軽量モデルへの切り替えは、コスト削減とESG対応の両面でメリットがあります。
  • ガバナンスへの組み込み:AI利用ガイドライン策定時に、セキュリティや著作権だけでなく、「持続可能性(どの程度のリソースを投じる価値がある業務か)」という視点も盛り込むことを推奨します。これにより、現場の無秩序なAI利用を防ぎ、投資対効果の高い活用を促進できます。

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