24 2月 2026, 火

韓国主要テレビ局によるOpenAI提訴:生成AIにおける「データの対価」と日本企業が直面する知財リスク

韓国の主要な地上波放送局3社がOpenAIを著作権侵害で提訴しました。この動きは、ニューヨーク・タイムズによる提訴と同様、高品質なコンテンツを持つメディアとAI開発企業の間の緊張関係を浮き彫りにしています。日本の「AIに優しい」著作権法の下であっても、企業が意識すべき実務的なリスクとデータガバナンスのあり方について解説します。

韓国放送局による提訴の背景と世界的潮流

韓国の主要地上波放送局であるKBS、MBC、SBSの3社が、OpenAIに対して著作権侵害を訴える訴訟を起こしました。報道によれば、これらの放送局はOpenAIが許可なく自社のニュース記事や脚本などのコンテンツをChatGPTの学習データとして使用したと主張しています。

この動きは孤立した出来事ではありません。米国ではニューヨーク・タイムズ(NYT)や作家団体が同様の訴訟を起こしており、欧州でも規制強化の動きが進んでいます。これらに共通するのは、「AIの学習には高品質なデータが不可欠であり、そのデータの権利者は正当な対価を得るべきである」という主張です。特にニュースメディアや放送局が持つデータは、事実の正確性や文脈の豊かさにおいて、Web上の一般的なテキストデータよりもLLM(大規模言語モデル)の精度向上に寄与するため、その価値を巡る争奪戦が激化しています。

日本企業が直面する「著作権法30条の4」の解釈と限界

日本は世界的に見ても「機械学習に寛容な国」として知られています。著作権法第30条の4により、情報解析(AI学習など)を目的とする場合、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用できるとされています。しかし、これは無条件の免罪符ではありません。

この条文には「著作権者の利益を不当に害する場合」という例外規定が存在します。今回の韓国の事例のように、ニュース記事などのコンテンツそのものの販売やライセンスを生業としている企業に対し、AIがその代替となるような出力を生成(学習データの丸暗記による出力など)してしまう場合、権利侵害とみなされるリスクは日本国内でもゼロではありません。特に、特定のドメイン知識を強化するための追加学習(ファインチューニング)や、社内データを参照させるRAG(検索拡張生成)システムを構築する際、外部の著作物を無断でデータベース化する行為には慎重な法的判断が求められます。

生成AI活用の現場における実務的課題

企業がAIをプロダクトに組み込んだり、業務活用したりする際、以下の2点のリスクを峻別する必要があります。

第一に「入力のリスク」です。自社でモデルを開発・追加学習させる場合、学習データの収集元が利用規約(Terms of Service)でスクレイピングを禁止していないか確認する必要があります。著作権法上は適法でも、契約違反(利用規約違反)として民事上の責任を問われる可能性があるためです。

第二に「出力のリスク」です。生成されたコンテンツが既存の著作物と酷似している場合、それを公開・利用することは通常の著作権侵害となります。プロンプトエンジニアリングやガードレールの設定によって、既存コンテンツの「コピー」が出力されないような技術的措置を講じることが、MLOps(機械学習基盤の運用)の一環として重要視されています。

日本企業のAI活用への示唆

韓国での訴訟事例は、日本企業にとっても対岸の火事ではありません。AI活用を進める意思決定者やエンジニアは、以下の点を再確認する必要があります。

  • 学習データのトレーサビリティ確保:自社特化モデルを開発する場合、データの出所を明確にし、可能な限りクリーンな(権利処理された、あるいはパブリックドメインの)データセットを使用する戦略が安全です。
  • ベンダー選定時の知財保証確認:商用のLLM APIを利用する場合、MicrosoftやGoogle、OpenAIなどが提供している「著作権補償(Indemnification)」の適用範囲を確認してください。万が一、生成物が第三者の権利を侵害したとして訴えられた際、ベンダーが防御してくれる契約になっているかが重要です。
  • 「学習」と「利用」の区別:RAGなどの仕組みでは、AIが学習しているわけではなく、検索結果として著作物を提示する場合があります。この場合、引用の要件を満たすかなど、従来の著作権法に基づいた判断が必要となります。
  • メディアとの提携戦略:もし自社が独自のデータを保有する側であれば、AI企業に対してデータをライセンス提供するビジネスモデル(News CorpとOpenAIの提携のような形)も視野に入ります。守るだけでなく、攻めの知財戦略も検討すべき時期に来ています。

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