23 2月 2026, 月

ウォルマートの事例に学ぶ「AIエージェント」の実利と、日本企業のIT投資戦略

米ウォルマートのAIエージェント「Sparky」が顧客単価向上に大きく寄与しているという事実は、生成AIの活用フェーズが「実験」から「実益」へと移行しつつあることを示しています。しかし、こうした先端技術への投資を継続するためには、Rimini Street CEOが指摘するように、既存のIT資産のコスト構造を見直し、技術スタックの主導権を取り戻す経営判断が不可欠です。本稿では、AIエージェントの可能性と、それを実現するためのIT戦略について解説します。

「対話」から「行動」へ:AIエージェントがもたらすROI

生成AIブームの初期、多くの企業はチャットボットによる「業務効率化」や「検索の高度化」に焦点を当てていました。しかし、現在注目されているのは、より自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」です。

記事で触れられているウォルマートのAIエージェント「Sparky」の事例は、非常に示唆に富んでいます。このエージェントを利用した顧客の注文額(オーダーバリュー)が35%増加したというデータは、AIが単なるカスタマーサポートの枠を超え、直接的な売上貢献(トップラインの向上)を実現し得ることを証明しています。AIがユーザーの意図を汲み取り、適切な商品を提案したり、購買行動を支援したりすることで、具体的なROI(投資対効果)を叩き出しているのです。

イノベーションの原資をどう捻出するか

一方で、こうした高度なAI実装には多額のコストと計算リソースが必要です。ここで重要になるのが、Rimini StreetのCEO、Seth Ravin氏が提唱する「コスト削減と技術スタックの自律性」という視点です。

多くの日本企業は、ERPなどの基幹システム(レガシーシステム)の維持管理に莫大なIT予算を費やしています。ベンダーロックインによる高額な保守費や、硬直的なアップグレードパスに従うことで、本来AIなどのイノベーションに回すべき予算が枯渇しているのが現状です。「AIをやりたいが予算がない」という声は現場でよく聞かれますが、その解は「既存システムの延命と第三者保守などによるコスト圧縮」によって、攻めのIT予算を捻出することにあります。

自律性の確保と「コンポーザブル」な戦略

また、Ravin氏が強調する「技術スタックに対する自律性(Autonomy)」は、AI時代のアーキテクチャ選定において極めて重要です。特定の巨大クラウドベンダーやAIプラットフォーマーにすべてを委ねることは、利便性が高い反面、将来的な技術的負債やコスト高騰のリスクを孕みます。

日本企業においても、必要な機能(LLM、データベース、フロントエンドなど)を部品のように組み合わせる「コンポーザブル(Composable)」なアプローチが求められます。これにより、技術の進化に合わせて最適なモデルやツールを入れ替えることが可能になり、長期的な競争力を維持できます。

日本企業のAI活用への示唆

以上の動向を踏まえ、日本の意思決定者やエンジニアが意識すべきポイントを整理します。

1. PoCから「KPI直結型」への転換
ウォルマートの例のように、AI導入の目的を「導入すること」ではなく、「客単価向上」や「工数削減率」といった具体的な経営数値に設定する必要があります。特にAIエージェントは、ユーザーの行動変容を促す強力なツールとなり得るため、マーケティングやEC部門での活用検討が推奨されます。

2. 「守りのIT」のコスト構造改革
「2025年の崖」問題とも関連しますが、レガシーシステムの刷新や保守にかかるコストを聖域化せず、徹底的に見直すべきです。浮いた予算をAI人材の採用やGPUリソース、データ整備に再配分するポートフォリオ・マネジメントが経営層に求められます。

3. ガバナンスと自律性のバランス
AIエージェントが自律的に動くほど、「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」や不適切な提案によるブランド毀損のリスクは高まります。日本の商習慣では品質への要求レベルが非常に高いため、人間による監督(Human-in-the-loop)の仕組みを組み込みつつ、ベンダーに依存しすぎない自社主導のガバナンス体制を構築することが、成功への鍵となります。

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