21 2月 2026, 土

米国防産業も動く「AIによるレガシーコード刷新」の潮流―日本企業が直面する『2025年の崖』への処方箋となるか

ボストンのスタートアップCode Metalが、防衛産業向けのレガシーソフトウェアをAIで刷新するために1億2,500万ドルの資金を調達しました。ミッションクリティカルな領域でAIによるコード変換と「検証」が進みつつある現状は、技術的負債に悩む日本企業にとって大きな示唆を含んでいます。

防衛産業が認める「AIによる近代化」の意味

ボストンを拠点とするスタートアップCode Metalが、シリーズBラウンドで1億2,500万ドル(約180億円規模)の資金調達を実施したというニュースは、単なるAI企業の成功譚以上の意味を持っています。彼らの顧客は「防衛産業」であり、取り組む課題は「レガシーソフトウェアの刷新」です。ミサイル防衛、レーダーシステム、航空宇宙機器など、一度のバグが人命や国家安全保障に関わる極めてミッションクリティカルな領域において、生成AIを用いたコードの書き換え(トランスレーション)と検証が受け入れられ始めているという事実は、AIの信頼性が新たなフェーズに入ったことを示唆しています。

これまで生成AIによるコーディング支援といえば、新規機能の開発や単体テストの自動化が主戦場でした。しかし、今回の事例は、数十年前に書かれた古い言語(Fortran、Ada、古いC/C++など)を、現代的な言語やアーキテクチャへ移行する「モダナイゼーション」において、AIが実用段階にあることを証明しようとしています。

「生成」以上に重要な「検証」のプロセス

Code Metalのアプローチで特筆すべきは、単にコードを変換するだけでなく、「検証(Verify)」に重きを置いている点です。生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)は、確率的に尤もらしいコードを出力しますが、そこには「幻覚(ハルシネーション)」や、微妙なロジックの不整合が含まれるリスクが常にあります。

防衛システムのような高信頼性が求められる現場では、AIが生成したコードが元のコードと数学的・論理的に等価であるか、あるいはセキュリティ要件を満たしているかを厳密にテストする必要があります。これは日本企業、特に金融機関の勘定系システムや、自動車・産業用ロボットなどの組み込みソフトウェア(エンベデッドシステム)を抱える組織にとっても、極めて重要な視点です。「AIに書かせる」ことよりも、「AIが書いたものが正しいとどう保証するか」というプロセス技術こそが、今後の競争力の源泉となります。

日本の「2025年の崖」とAI活用の接点

日本国内に目を向けると、経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題が依然として深刻です。COBOLや古いJavaで書かれた基幹システムがブラックボックス化し、その保守を担ってきたベテランエンジニアの引退が相次いでいます。若手エンジニアはモダンな言語(Python, Go, Rustなど)を好むため、人材のミスマッチも拡大しています。

この状況下で、AIを用いたレガシーマイグレーションは強力な解決策になり得ます。ただし、丸投げはできません。AIは「仕様書のないコード」からロジックを抽出し、ドキュメントを生成し、モダンな言語へ変換する「下書き」までは超高速に行えますが、最終的なアーキテクチャ設計や業務要件との整合性確認は、人間のアーキテクトが担う必要があります。日本の商習慣特有の複雑な例外処理が含まれている場合、AIがそれを「バグ」と誤認して修正してしまうリスクもあるため、ドメイン知識を持った人間によるレビュー体制(Human-in-the-loop)の構築が不可欠です。

リスクと限界:銀の弾丸ではない

もちろん、リスクや限界も理解しておく必要があります。第一に、著作権やセキュリティの問題です。社外のAIモデルに自社のコア技術であるソースコードをアップロードすることは、情報漏洩のリスクを伴います。オンプレミス環境や、学習に利用されないことが保証されたエンタープライズ版のLLM環境を整備することが、AI活用以前の前提条件となります。

第二に、元のコード自体が低品質(いわゆるスパゲッティコード)である場合、AIがそれを忠実に再現すると、モダンな言語で書かれたスパゲッティコードが生成されるだけという「Garbage In, Garbage Out」の問題です。リファクタリング(構造整理)までをAIに任せるのか、一度忠実に移行してから人間が直すのか、戦略的な判断が求められます。

日本企業のAI活用への示唆

今回の米国の動向を踏まえ、日本の意思決定者やエンジニアが意識すべきポイントは以下の3点です。

1. 「塩漬け」から「AIによる可視化」へ
ブラックボックス化したレガシーコードを無理に書き換える前に、まずはAIを使って「コードの解説」「ドキュメント生成」「依存関係の分析」を行わせることから始めるべきです。これにより、刷新のリスクとコストを精緻に見積もることが可能になります。

2. テストと検証への投資
AIによるコード生成を導入する場合、セットで強化すべきは「自動テスト環境」です。AIの出力が正しいかを即座に判定できるテストカバレッジがなければ、AIのスピードを活かすことはできません。Code Metalが注力しているように、生成技術以上に検証技術への投資が必要です。

3. エンベデッド領域でのRust等への移行検討
日本の製造業が強みを持つ組み込み領域では、メモリ安全性の観点からC/C++からRustへの移行が世界的トレンドです。手動では膨大な工数がかかるこの移行作業こそ、AIによるトランスレーション支援が最も効果を発揮する領域の一つです。防衛産業での採用実績は、この分野でのAI活用の安全性を示す一つの指標となるでしょう。

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