21 2月 2026, 土

世界60カ国が合意へ向かう「デリー宣言」:グローバルAIガバナンスの潮流と日本企業への影響

インド政府主催のサミットにおいて、60カ国以上がAIに関する「デリー宣言」への署名に合意したとの報道がなされました。G7を中心とした従来の枠組みに加え、グローバルサウスや米中を含めた広範な合意形成が進む中、日本企業は国際的なAI規制・ルールの多極化をどう捉え、実務に落とし込むべきかを解説します。

「デリー宣言」が示すAIガバナンスの多極化

インドで開催された「Global IndiaAI Summit」において、アシュウィニ・ヴァイシュナウ電子・情報技術相は、少なくとも60カ国がAIに関する国際的な枠組みである「デリー宣言(Delhi Declaration)」に合意したと明らかにしました。この動きは、単なる外交的なイベントにとどまらず、グローバルなAIエコシステムにおけるパワーバランスの変化を示唆しています。

これまでAIのルール形成は、EUの「AI法(EU AI Act)」による厳格な規制アプローチや、日本が主導したG7の「広島AIプロセス」によるソフトロー(法的拘束力のない指針)アプローチが先行していました。しかし、今回のデリー宣言には、米国や中国といった対立しがちな超大国に加え、所謂「グローバルサウス」と呼ばれる新興国が多く含まれていると見られます。これは、AIの安全な開発と利用に関する議論が、先進国主導のものから、より広範で多様な国々の利害調整の場へとシフトしていることを意味します。

開発拠点としてのインドと日本企業の関わり

日本企業にとって、このニュースは「対岸の火事」ではありません。多くの国内大手企業やSIer(システムインテグレーター)にとって、インドは重要なIT開発拠点であり、AI人材の供給源でもあります。

もし「デリー宣言」が、AI開発における透明性やデータの取り扱い、アルゴリズムの公平性に関して独自の、あるいはEUに近い厳格な基準を設ける方向へ進むのであれば、日本企業がインドのパートナー企業と共同開発するAIプロダクトにも影響が及びます。具体的には、学習データの選定基準や、モデルの監査プロセスにおいて、現地のコンプライアンス要件を満たす必要が出てくる可能性があります。

「ソフトロー」の日本と「ハードロー」の世界

現在、日本のAI規制は総務省や経済産業省によるガイドラインベースの「ソフトロー」が中心であり、企業の自主的なガバナンスを尊重する姿勢をとっています。これにより、生成AIを活用した新規事業や業務効率化のPoC(概念実証)が進めやすい環境にあると言えます。

しかし、グローバル市場を見渡すと、規制のハードルは上がりつつあります。EUだけでなく、今回のような多国間合意が形成されることで、「国際的な最低ライン」としての安全基準が確立される可能性があります。日本国内の緩やかな基準に合わせて開発されたAIサービスが、そのままでは海外市場(特にグローバルサウスを含む成長市場)で展開できない、あるいはサプライチェーンから排除される「ガラパゴス化」のリスクも考慮しなければなりません。

日本企業のAI活用への示唆

今回の動向を踏まえ、日本の経営層やAI実務者が意識すべきポイントは以下の通りです。

1. ガバナンス基準の「高め」設定

国内法さえ守れば良いという考えを捨て、国際的な潮流(G7広島プロセス、EU AI法、そして今回のデリー宣言など)を俯瞰し、最も厳しい水準にもある程度対応できるような、拡張性のある社内AIガバナンスを構築することが推奨されます。特に「説明可能性」や「バイアス対策」は世界共通の課題です。

2. オフショア開発における契約・監査の見直し

インドやベトナムなど海外に開発を委託している場合、現地のAI規制動向を契約に反映させる必要があります。開発プロセスが国際的な倫理指針や合意に準拠しているか、トレーサビリティ(追跡可能性)を担保する仕組み作りが急務です。

3. リスクベース・アプローチの実践

すべてのAI活用に厳格なルールを適用するとイノベーションが阻害されます。社内業務効率化のためのAI(低リスク)と、顧客の意思決定に関わるAI(高リスク)を明確に分類し、リスクに応じた管理を行うことが、スピードと安全性を両立する鍵となります。

世界的なルール形成の動きは、制約であると同時に、信頼できるAIを社会実装するための道標でもあります。日本企業には、変化を静観するのではなく、自社のAI倫理規定をグローバルスタンダードへ適合させていく能動的な姿勢が求められています。

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