18 2月 2026, 水

AI音声の権利侵害リスクと企業のガバナンス:Google訴訟から学ぶ、日本企業が備えるべき法的・倫理的課題

元NPR(米公共ラジオ局)の司会者が、自身の声をGoogleのAIプロダクトに無断で模倣されたとして提訴しました。この事例は、生成AIにおける「声の権利(パブリシティ権)」を巡る世界的な議論の一端に過ぎません。本記事では、この訴訟を起点に、音声AI技術の進化に伴う法的リスクと、日本企業がAIを活用する際に考慮すべきガバナンスやコンプライアンスの要諦を解説します。

「声の模倣」を巡るGoogleへの提訴が示唆するもの

米国において、元NPRの人気司会者David Greene氏が、Googleを相手取り訴訟を起こしました。同氏の主張は、GoogleのAI製品が彼の許可なく、彼自身の「声」を模倣(patterned)して作られているというものです。この件は、2024年に話題となったOpenAIの音声機能が著名女優の声に酷似していたとして批判を浴びた事例と同様、生成AIと個人のアイデンティティに関わる権利の衝突を象徴しています。

ここでの重要な論点は、単に「録音データを無断使用したか」だけでなく、「AIが生成した出力結果が、特定の個人の特徴を意図的に、あるいは結果的に再現してしまっているか」という点にあります。技術的には少量の音声データから高品質なクローンボイスを作成することが可能(Few-shot Learningなど)になっている現在、意図的か否かに関わらず、特定の著名人や実在の人物に「似てしまう」リスクは、AI開発ベンダーだけでなく、それを利用するユーザー企業にとっても無視できない問題となっています。

日本国内の法的環境と実務上のリスク

日本企業がこの種のリスクを考える際、国内の法制度と商習慣を正しく理解する必要があります。日本では、著作権法第30条の4により、AIの学習段階における著作物の利用は、原則として権利者の許諾なく行えるという、世界的に見ても開発者に有利な条文が存在します。しかし、これは「何を生成しても良い」という意味ではありません。

生成されたコンテンツ(ここではAI音声)が特定の人物の声に酷似しており、それを商用利用する場合、「パブリシティ権」の侵害や、「不正競争防止法」違反に問われる可能性があります。特に、特定の人物の顧客吸引力に「ただ乗り(フリーライド)」するような利用方法は、法的措置の対象となり得ます。また、法的な勝敗以前に、消費者の信頼を損なう「レピュテーションリスク」は、日本のようなコンプライアンス意識の高い市場では致命的になりかねません。

プロダクト開発・導入におけるガバナンスのあり方

企業が自社のサービスやプロダクトに音声AI(Text-to-Speechや対話型AI)を組み込む際、以下の点に注意が必要です。

第一に、採用するAIモデルの「学習データの透明性」です。利用しようとしているモデルが、どのようなデータセットで学習されたのか、特定の個人の権利を侵害するリスクがないかをベンダーに確認する必要があります。ブラックボックス化したモデルを安易に採用することは、将来的な訴訟リスクを抱え込むことと同義です。

第二に、生成結果のモニタリングと制御です。顧客対応の自動化などでAIボイスを使用する場合、その声が実在のタレントやアナウンサーに酷似していないか、あるいは不適切な発言をしないかという品質管理(Quality Assurance)のプロセスに、倫理的なチェック項目を追加することが求められます。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGoogleへの訴訟事例は、対岸の火事ではありません。日本企業がAIを活用した事業開発や業務効率化を進める上で、以下の3点を実務的な指針として推奨します。

  • ベンダー選定基準の厳格化:機能やコストだけでなく、「学習データの権利処理」や「リスク発生時の補償条項(Indemnification)」が契約に含まれているかを確認してください。
  • オリジナリティの確保と許諾取得:自社専用のブランドボイスを作成する場合は、実在の声優やナレーターと適切な契約を結び、AI学習への利用許諾を明確に文書化することが、最も安全かつ誠実なアプローチです。
  • 「類似性」への感度を高める:意図せずとも有名人に似てしまうことは起こり得ます。法務部門やリスク管理部門と連携し、リリース前に「特定の誰かを想起させないか」という観点でのチェック体制を構築することが、持続可能なAI活用につながります。

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