アリババが最新モデル「Qwen 3.5」を発表し、生成AIの競争軸は単なる「対話」から、複雑なタスクを自律的に完遂する「AIエージェント」へと急速にシフトしています。Anthropicなどの米系企業も注力するこの領域で、日本企業は技術選定やリスク管理をどう再定義すべきか、実務的な観点から解説します。
「チャットボット」から「AIエージェント」へのパラダイムシフト
生成AIの進化は、人間と対話するだけの「チャットボット」のフェーズを終え、具体的な業務プロセスを実行する「AIエージェント」の時代へと突入しました。CNBCが報じたアリババの「Qwen 3.5」のリリースは、まさにこの潮流を象徴しています。AnthropicのClaudeがPC操作機能(Computer Use)を強化しているのと同様に、中国のテックジャイアントもまた、モデルの推論能力とツール利用能力を飛躍的に高めています。
AIエージェントとは、ユーザーの曖昧な指示(例:「来週の競合調査をまとめておいて」)に対し、自ら必要な手順を計画し、Web検索、データ抽出、ドキュメント作成といった複数のツールを使いこなしながら目的を達成するシステムを指します。これまでのLLM(大規模言語モデル)が「言葉を生成するエンジン」だとすれば、AIエージェントは「手足を動かして仕事をする実務者」と言えます。
Qwenシリーズの台頭と「オープンウェイト」の意義
Qwenシリーズは、ベンチマークテストにおいて米国のトップモデルに匹敵する性能を記録し続けており、特にコーディングや数学的推論において高い評価を得ています。Qwen 3.5の登場で注目すべき点は、その性能だけでなく、多くの場合においてモデルの重み(Weight)が公開される、あるいは安価に利用できるという点です。
日本企業にとって、この「選択肢の多様性」は極めて重要です。OpenAIやGoogle、Anthropicといった米国勢のAPIに依存しすぎることは、コスト面だけでなく、BCP(事業継続計画)やベンダーロックインのリスクを伴います。Qwenのような高性能なモデルが存在することは、マルチモデル戦略(用途に応じて複数のAIを使い分ける戦略)を検討する上で強力なカードとなります。
経済安全保障とデータガバナンスの壁
一方で、日本企業が中国系ベンダーのモデルを採用する際には、当然ながら「経済安全保障」と「データガバナンス」の懸念がつきまといます。特に、機密情報をAPI経由で国外のサーバーに送信することには、多くの企業のコンプライアンス部門が難色を示すでしょう。
しかし、ここで冷静に切り分けるべきは、「モデルそのもの(アーキテクチャと重み)」と「サービス(API)」の違いです。Qwenのオープンウェイト版を、自社のプライベートクラウドやオンプレミス環境、あるいは信頼できる国内クラウドベンダーの管理下で稼働させる場合、データが外部に漏れるリスクは制御可能です。このように「技術は利用するが、データは渡さない」というアーキテクチャを組めるかどうかが、実務上の分かれ道となります。
日本企業のAI活用への示唆
Qwen 3.5の登場とエージェント化の流れを受け、日本の意思決定者やエンジニアは以下の3点を意識してプロジェクトを進めるべきです。
1. 単機能自動化からプロセス全体の自律化へ
これまでの「議事録要約」や「メール下書き」といった点での効率化から、AIエージェントを活用した「一連の業務フローの自動化」へ視野を広げてください。ただし、最初から完全自律を目指すのではなく、人間が最終確認を行う「Human-in-the-loop」の設計を必須とすることで、日本企業が重視する品質と信頼性を担保できます。
2. マルチモデル戦略とオンプレミス回帰の検討
特定の米国ベンダー1社に依存するのではなく、タスクの難易度やセキュリティ要件に応じてモデルを使い分けるルーティングの仕組みを構築すべきです。特に機密性が高い業務や、コストを抑えたい大量処理の業務では、Qwenのような高性能モデルを自社管理下のインフラで動かす選択肢も現実的になっています。
3. AIガバナンスの高度化
AIが自律的に外部ツールを操作するようになると、誤発注や誤送信のリスクが生じます。従来の「情報漏洩対策」に加え、「AIの行動制限(ガードレール)」をシステム的にどう実装するか、エンジニアとリスク管理部門が連携してルール策定を進める必要があります。
