米国カリフォルニア州弁護士会が、法曹専門職に向けた生成AI活用のための実務ガイダンスを公開しました。この動きは、弁護士に限らず、高度な専門性と倫理観が求められる日本の企業・組織にとっても、AI活用のルール作りにおいて重要な示唆を含んでいます。
米国法曹界が示す「AI活用の監督責任」
生成AI(Generative AI)の急速な普及に伴い、米国では法曹界におけるAI利用のルール作りが急ピッチで進んでいます。カリフォルニア州弁護士会(The State Bar of California)は、弁護士向けの継続教育(MCLE)の一環として、生成AIに関するツールキットおよび実務ガイダンスを公開しました。これは、AIテクノロジーを業務に取り入れる際に、弁護士が遵守すべき「職務行動規範(Rules of Professional Conduct)」をどのように解釈・適用すべきかを具体的に示したものです。
背景には、生成AI特有のリスクがあります。大規模言語モデル(LLM)は時として、もっともらしいが事実とは異なる内容を出力する「ハルシネーション(幻覚)」を起こす可能性があります。実際、米国では弁護士が生成AIを用いて作成した書面に架空の判例が含まれており、裁判所から処分を受けるという事例も発生しています。今回のガイダンスは、こうしたリスクを抑制し、テクノロジーを安全かつ倫理的に活用するための枠組みを提供しようとするものです。
「守秘義務」と「正確性の検証」は全業種共通の課題
この動きは、米国の法律家に限った話ではありません。日本企業において、エンジニア、リサーチャー、法務担当者といった専門職がAIを活用する際にも、同様の課題が突きつけられています。特に重要なのが「守秘義務」と「正確性の検証」の2点です。
まず、生成AIに入力するデータに関するガバナンスです。多くのパブリックな生成AIサービスでは、入力されたデータがモデルの学習に再利用される可能性があります。顧客情報や未発表の技術情報などを安易に入力すれば、それが意図せず社外に流出するリスクとなります。企業向けプラン(Enterprise版など)の契約や、API利用時のデータポリシーを確認し、学習に利用されない設定を徹底することは、現代の実務における必須のリテラシーと言えます。
次に、出力結果に対する「人間による監督(Human in the loop)」の重要性です。AIはあくまで支援ツールであり、最終的な成果物に対する責任は人間が負います。どれほどAIが高性能になっても、プロフェッショナルとしてファクトチェックを行い、論理の整合性を確認するプロセスを省略することはできません。AIのアウトプットをそのまま顧客や経営陣に提出することは、専門職としての職務放棄と見なされかねない時代になりつつあります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のカリフォルニア州の事例を踏まえ、日本企業が実務において意識すべきポイントを整理します。
1. ガイドラインは「禁止」から「安全な利用」へ
初期の段階では生成AIの利用を一律禁止する企業も多く見られましたが、現在では業務効率化のために「安全な利用条件」を定めるフェーズに移行しています。「機密情報は入力しない」「出力内容は必ず人間が検証する」といった基本原則を明文化し、従業員に周知徹底することが求められます。
2. 専門職としての倫理観の再定義
AIを活用することで業務スピードは飛躍的に向上しますが、同時に「AIが出した答えだから」という言い訳は通用しなくなります。エンジニアであればコードの安全性、法務であれば法的見解の正確性について、AIを利用したとしても最終責任は自分にあるという意識(オーナーシップ)を組織文化として根付かせることが重要です。
3. リスクに応じたツールの使い分け
アイデア出しや草案作成などの「低リスク業務」と、最終的な意思決定や顧客への回答などの「高リスク業務」を区別し、それぞれのフェーズでAIをどの程度信頼して利用するか、社内の基準を設けることが推奨されます。特に、情報の正確性が法的責任に直結する領域では、より厳格な検証プロセス(ダブルチェックなど)をフローに組み込むべきでしょう。
