米金融メディアNerdWalletが、LLM(大規模言語モデル)経由のトラフィックを新たな成長機会として捉えています。生成AIの普及により「検索からの流入減」が危惧される中、専門性の高いデータを持つ企業が採るべき生存戦略と、日本企業への示唆について解説します。
LLMはWebメディアの「敵」か「味方」か
生成AIの普及に伴い、GoogleのSGE(Search Generative Experience)やPerplexityのような検索体験が広がる中で、多くのデジタルメディアやサービス事業者は「検索結果ページ(SERP)でのゼロクリック」によるトラフィック激減を懸念しています。ユーザーが検索結果上でAIの回答に満足し、Webサイトを訪れなくなるというシナリオです。
しかし、米国の個人金融アドバイス大手NerdWallet(ナードウォレット)の最新動向は、これとは異なる視点を提供しています。同社は、LLMによるトラフィックを新たな顧客獲得チャネルとして肯定的に捉え、特にこれまでリーチが難しかった顧客層(Low Prime層など)への拡大にAIを活用する姿勢を見せています。
これは、AIが単にコンテンツを「学習(吸い上げ)」するだけの存在ではなく、信頼できる情報源として特定のサービスへユーザーを誘導する「ゲートウェイ」になり得ることを示唆しています。
「GEO(生成AI検索最適化)」という新たな戦場
従来のSEO(検索エンジン最適化)が「キーワードとリンク」を重視していたのに対し、今後は「GEO(Generative Engine Optimization)」と呼ばれる概念が重要になります。これは、LLMやAI検索エンジンが回答を生成する際、自社の情報を「信頼できる出典」として引用・参照させるための最適化手法です。
NerdWalletのような金融分野では、情報の正確性と最新性が命です。LLMは確率的に文章を生成するため、ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクを抱えています。そのため、AIモデルや検索エンジンは、構造化された正確な独自データを持つ「一次情報源」を優先的に参照しようとする動きがあります。
つまり、ネット上の情報をただまとめただけの「コタツ記事」的なコンテンツは淘汰され、独自のデータ、専門家の知見、あるいはユーザーのリアルな体験談を持つプラットフォームこそが、AI時代に生き残るトラフィックを獲得できるのです。
日本企業における「専門特化」と「データ構造化」の重要性
この潮流は、日本のビジネス環境においても極めて重要な意味を持ちます。日本には、金融、不動産、医療、製造など、各業界に深く根ざした商慣習や規制があり、汎用的なLLM(GPT-4など)だけではカバーしきれない「ローカルな文脈」が存在します。
例えば、日本の税制に基づいた住宅ローン控除の計算や、複雑な社会保険制度の解説などは、グローバルなAIモデルが苦手とする領域です。日本企業が自社の持つ専門知識や独自データを、AIが理解しやすい形式(構造化データやAPI)で整備・公開することは、海外製AIプラットフォームに対して優位性を保ち、そこからの流入を確保するための強力な武器となります。
リスク要因:プラットフォーマーへの依存
一方で、手放しで楽観視することはできません。GoogleやOpenAIといったプラットフォーマーのアルゴリズム変更一つで、流入が激減するリスクはSEO時代以上に高まっています。また、自社のコンテンツがAIの学習データとして無償で利用されることへの法的・倫理的な議論も決着していません。
したがって、LLMからの流入(Top of Funnel)を期待しつつも、一度訪れたユーザーを自社アプリや会員基盤に定着させる「リテンション戦略」や、AIには代替できない「人間による高度なコンサルティング・サポート」の価値を並行して高める必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
NerdWalletの事例を踏まえ、日本の意思決定者やプロダクト担当者は以下の3点を意識すべきです。
1. 「一次情報」の価値再定義と構造化
自社しか持っていないデータ(価格推移、在庫情報、専門家の知見など)は何でしょうか? それをAIが読み取りやすい形で整備することが、将来的な「AI検索」からの流入確保につながります。社内データのAPI化やナレッジグラフの構築は、技術的負債の解消だけでなく、マーケティング施策としても機能します。
2. ユーザー体験(UX)のゴール転換
「情報を探す」プロセスはAIが代行するようになります。したがって、自社サイトやアプリの価値は「情報の検索」から「情報の実行・活用」へとシフトすべきです。例えば、金融商品を見つけるだけでなく、その場ですぐにシミュレーションし、専門家に相談できるといった「アクション」に直結するUXが求められます。
3. AIガバナンスとブランド保護
AIが自社ブランドについて誤った情報を生成・拡散するリスクに備える必要があります。自社サイトの情報を正確に保つことはもちろん、AI検索における自社ブランドの表示され方を定期的にモニタリングし、必要に応じて構造化マークアップ等で正しい情報をAIに伝える技術的なSEO/GEO対応が、広報・ブランド管理の一環として不可欠になります。
