15 2月 2026, 日

AIエージェントの「見えないリスク」:自律的なAPI実行に伴うガバナンスの盲点と日本企業の対策

生成AIの活用は、単なるチャットボットから、自律的にタスクを実行する「AIエージェント」へと進化しています。しかし、最新の調査によれば、AIエージェントに関するセキュリティやプライバシーのインシデントを経験・懸念している企業は驚くほど高い割合に上ります。本稿では、AIエージェントがもたらす新たなリスクの実態と、日本企業がとるべきガバナンスおよび技術的な対策について解説します。

チャットから「アクション」へ:AIエージェントの台頭とリスクの変化

現在、多くの日本企業がRAG(検索拡張生成)を用いた社内ドキュメント検索や、議事録作成などの業務効率化に取り組んでいます。しかし、グローバルの潮流は既に次のフェーズ、すなわち「AIエージェント」へと移行しつつあります。

AIエージェントとは、人間が詳細な指示を与えなくとも、AI自身が計画を立て、外部ツールやAPIを呼び出してタスクを完遂するシステムを指します。例えば、「来週の出張手配をして」と頼むだけで、フライトの検索、スケジュールの確認、予約システムの操作、経費申請の下書きまでを自律的に行うようなイメージです。

この利便性の裏で、従来のリスク管理では捉えきれない「見えないリスク」が急増しています。API管理ソリューションを提供するGraviteeの最新の調査によると、企業の88%が過去12ヶ月間にAIエージェントに関連するセキュリティやデータプライバシーのインシデントを経験、あるいは疑わしい事象を確認したと回答しています。また、半数近くのAIエージェントが監視なし(Oversightなし)で稼働しているという実態も浮き彫りになりました。

なぜAIエージェントは「野放し」になりやすいのか

従来のWebアプリケーションであれば、人間が画面を操作し、そのログを監視することでリスクを管理できました。しかし、AIエージェントの場合、システムが自律的にAPIを叩くため、以下のような問題が発生しやすくなります。

第一に「意図しないAPI実行」です。LLM(大規模言語モデル)のハルシネーション(幻覚)やプロンプトインジェクション攻撃により、AIが権限外のデータを取得したり、誤ってデータを削除・更新したりするリスクがあります。これは単なる情報の「漏洩」にとどまらず、システムに対する「破壊的アクション」につながる可能性があります。

第二に「可視性の欠如」です。開発者が個別に作成したエージェントや、現場部門が独自に導入したSaaS連携機能などが、IT部門の管理外でAPI通信を行うケースが増えています。いわゆる「シャドーAI」の問題ですが、これが従来のシャドーITと異なるのは、通信の主体が人間ではなく、高速かつ大量に処理を行うAIである点です。

日本企業における「勤勉さ」が招くリスクとガバナンス

日本企業特有の組織文化に照らし合わせると、この問題は別の側面を見せます。日本の現場担当者は「業務を何とか効率化しよう」「成果を出そう」とする勤勉さから、便利なツールを積極的に試そうとする傾向があります。これはDX推進の原動力となる一方で、組織的なガイドラインが整備されていない場合、個人の判断でAPIキーを発行し、統制の効かないエージェントを稼働させてしまうリスクを孕んでいます。

また、日本の商習慣として、ベンダーやSIerに開発を委託するケースが多く見られます。納品されたシステム内部でAIエージェントがどのように外部サービスと通信しているかがブラックボックス化している場合、運用フェーズに入ってから予期せぬ挙動や課金超過、情報流出に直面する恐れがあります。

実務的な対策:API管理と「ガードレール」の実装

AIエージェントを安全に活用するためには、精神論や一律の禁止ルールではなく、技術的な「ガードレール」の設置が不可欠です。

まず、AIモデルと社内システム・外部SaaSの間には、必ずAPIゲートウェイを介在させる構成が推奨されます。これにより、「誰(どのエージェント)が」「何を(どのデータを)」「どうした(読み取りか書き込みか)」をすべてログとして記録・監視可能になります。

次に、LLM専用のガバナンス層を設けることです。例えば、AIが「データベースの削除」などの危険なコマンドを含むAPIリクエストを生成した場合、それを実行前に検知してブロックする仕組みや、PII(個人識別情報)が含まれる出力をマスクする処理などを自動化します。日本では個人情報保護法の改正やAI事業者ガイドラインへの準拠が求められるため、こうした技術的な制御はコンプライアンス対応の要となります。

日本企業のAI活用への示唆

AIエージェントの実用化は、労働人口減少が進む日本において極めて重要な解決策となり得ます。リスクを恐れて委縮するのではなく、正しく「飼いならす」視点が必要です。

1. 「監視」の定義を再考する
人間に対するログ監視だけでなく、AIエージェントからAPIへのリクエスト内容(ペイロード)を監視・制御する仕組み(AIゲートウェイなど)を導入してください。シャドーAIを防ぐには、可視化が第一歩です。

2. 読み取りと書き込みの権限分離
AIに与える権限は最小限(Least Privilege)の原則に従ってください。特に、情報の参照(Read)は許可しても、更新・削除(Write/Delete)のアクションには、必ず人間による承認フロー(Human-in-the-loop)を挟む設計から始めるのが現実的かつ安全です。

3. ガバナンスと現場のバランス
一律禁止は現場の隠れた利用(シャドーAI)を助長します。認可された安全なサンドボックス環境や、セキュリティ審査済みのAPIカタログを提供することで、現場のイノベーションを阻害せずにリスクをコントロールする姿勢が、経営層やリーダーには求められます。

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