中国の検索大手Baiduが、7億人のユーザーを抱える検索アプリに「AIエージェント」機能を統合することを発表しました。検索エンジンが単なる「情報検索」から「タスク実行」へと進化する世界的な潮流を象徴する一方で、韓国企業による利用制限やセキュリティ警告といった動きも報じられています。本稿では、この事例から読み解く「検索×エージェント」の未来と、日本企業が直面するAIガバナンスの課題について解説します。
検索から「行動」へ:AIエージェント化するプラットフォーム
Baiduの発表は、生成AIのトレンドが「チャットボット(対話)」から「AIエージェント(行動・自律実行)」へとシフトしていることを明確に示しています。従来の検索エンジンは、ユーザーがキーワードを入力し、リンクのリストから情報を探す受動的なツールでした。しかし、AIエージェントが組み込まれることで、検索アプリは「レストランの予約」「旅行プランの作成とチケット手配」「ドキュメントの要約」といった具体的なタスクをユーザーに代わって実行する能動的なパートナーへと変貌します。
この動きはBaiduに限った話ではありません。GoogleのSGE(Search Generative Experience)や、OpenAIのSearchGPT、Perplexityなどの動向とも軌を一にしており、2025年以降のユーザーインターフェース(UI)の標準が「検索窓を通じたエージェント操作」になる可能性を示唆しています。日本のプロダクト開発者にとっても、自社サービスをいかにこの「エージェント・エコシステム」に対応させるか、あるいは自社アプリ内にどうエージェント機能を組み込むかが、今後の競争優位性を左右する重要な論点となるでしょう。
利便性の裏にある「シャドーAI」とセキュリティリスク
一方で、今回のニュースで注目すべきは、韓国企業等による利用制限やセキュリティ警告が報じられている点です。7億人という膨大なユーザーベースを持つコンシューマー向けアプリに高度なAIが搭載されることは、企業にとって新たなセキュリティリスクを意味します。
日本企業においても、従業員が業務効率化のために個人のスマートフォンや未認可のクラウドサービスを利用する「シャドーIT」ならぬ「シャドーAI」の問題が深刻化しています。Baiduのような「スーパーアプリ(生活のあらゆる場面で使われるアプリ)」にAIエージェントが統合されると、従業員は悪気なく社内データを入力し、翻訳や要約、コード生成などを依頼してしまうリスクが高まります。特に、サーバーが国外にあるサービスや、入力データがモデルの学習に利用される規約になっている場合、情報漏洩やコンプライアンス違反に直結します。
日本企業のAI活用への示唆
今回のBaiduの事例は、テクノロジーの進化とガバナンスのあり方について、日本企業に以下の3つの重要な視点を提供しています。
1. 「禁止」から「管理された活用」への移行
海外の便利なAIツールを単に「全面禁止」にするだけでは、従業員の生産性を下げるだけでなく、隠れて利用するリスク(シャドーAI)を助長します。企業は、安全な代替ツール(エンタープライズ版ChatGPTや社内構築LLMなど)を提供するか、あるいはデータ入力に関する明確なガイドライン(個人情報はOKだが機密情報はNGなど)を策定し、教育を徹底する必要があります。
2. プロダクトへの「エージェント機能」組み込みの検討
Baiduの例が示すように、ユーザーは「探す」ことよりも「解決する」ことを求めています。日本のBtoCサービスや社内システムにおいても、単なる検索機能ではなく、ユーザーの意図を汲み取ってタスクを完了させるエージェント機能の導入を検討すべきフェーズに来ています。
3. 地政学的リスクとデータ主権の意識
AIモデルの利用において、データがどこに保存され、どの国の法規制下にあるかを把握することは、経営上の必須事項です。特にグローバル展開する日本企業や、機微な情報を扱う組織においては、利便性だけでなく「データ主権(Data Sovereignty)」の観点から、利用するAIベンダーを選定する厳しい目が求められます。
