コネクテッドTV広告プラットフォームを展開するMNTNのCEO、Mark Douglas氏は、AIの活用によって顧客が「より低コストかつ迅速に」CM制作を行えるようになっていると指摘します。テキストや静止画にとどまらず、動画クリエイティブの領域でも実用段階に入った生成AIが、企業のマーケティング活動や制作プロセスをどのように変えつつあるのか。日本の商習慣や法的リスクを踏まえ、その可能性と課題を解説します。
クリエイティブ制作の「民主化」とコスト構造の破壊
MNTNのCEO、Mark Douglas氏の発言は、広告業界における地殻変動を象徴しています。従来、テレビCMや高品質なプロモーションビデオの制作は、専門的なスキルを持つ制作会社や広告代理店への委託が前提であり、多額の予算と長いリードタイムを必要とする「重厚長大」なプロジェクトでした。
しかし、近年の生成AI技術の進化は、この構造を根本から変えようとしています。シナリオ作成から絵コンテ(ストーリーボード)の生成、ナレーション(音声合成)、そして動画素材そのものの生成に至るまで、AIが制作プロセスの一部、あるいは大部分を担うことが可能になりました。これにより、リソースが限られた企業であっても、放送品質に近い動画広告を内製、あるいは低コストで制作できる環境が整いつつあります。
「質」と「量」の両立:PDCAサイクルの高速化
日本企業、特にデジタルマーケティングの現場において、この変化は大きな意味を持ちます。これまでは「1本の完璧なクリエイティブ」を作ることに注力しがちでしたが、Web広告やSNS、コネクテッドTV(CTV)の領域では、複数のバリエーションを試し、データを元に高速で改善(PDCA)を回すことが求められます。
AIを活用することで、例えば「背景だけを変えたバージョン」「ナレーションのトーンを変えたバージョン」「別のアバターを使用したバージョン」などを短時間で大量に生成することが可能になります。これは、人的リソースが不足しがちな日本のマーケティング部門にとって、代理店任せにせずに自社で仮説検証を行うための強力な武器となります。
日本企業が直面する課題:品質管理と権利侵害リスク
一方で、生成AIによる動画制作には無視できないリスクも存在します。特に日本市場は、クリエイティブの品質に対する要求水準が極めて高く、AI特有の「ハルシネーション(事実に基づかない生成)」や、映像の不自然な歪み(不気味の谷現象)に対して敏感です。ブランドイメージを損なうような低品質なAI生成物が世に出ることは避けなければなりません。
また、著作権や肖像権の問題も深刻です。学習データに何が使われているかが不透明なAIモデルを使用した場合、知らぬ間に他社の知的財産権を侵害してしまうリスクがあります。日本では2024年現在、AIと著作権に関する議論が文化庁を中心に進められていますが、商用利用においては、法的クリアランスが保証された商用利用可能なモデル(Adobe FireflyやGetty ImagesのAIなど)や、各プラットフォームが提供する安全なツールの選定が不可欠です。
日本企業のAI活用への示唆
動画広告およびクリエイティブ制作におけるAI活用について、日本企業は以下の3点を意識して導入を進めるべきです。
1. 「完パケ」ではなく「素材・構成」での部分活用から始める
AIに最初から最後まで全てを作らせるのではなく、絵コンテの作成、ナレーションの仮当て、背景素材の生成など、制作プロセスの一部を効率化するツールとして導入することで、品質を担保しつつコスト削減を実現できます。
2. クリエイティブの内製化(インハウス)支援としての位置づけ
広告代理店への丸投げから脱却し、スピード感が求められるWeb/SNS向け動画に関しては、AIツールを用いて社内で制作・運用する体制を整えることが、競争力の源泉となります。
3. ガバナンスとブランドセーフティの確立
「どのAIツールを使用するか」「生成物の権利確認をどう行うか」「AI生成物であることを明示するか」といった社内ガイドラインを策定する必要があります。特にタレントや実在の人物に似せた生成物には厳格なチェックが必要です。
