12 2月 2026, 木

AIエージェント時代に問われる「非人間ID」の管理──GitGuardianの大型調達から見るセキュリティの死角

フランス発のサイバーセキュリティ企業GitGuardianが、シリーズCで5,000万ドル(約75億円)を調達しました。この動きは単なる一企業の成功にとどまらず、生成AIが「チャット」から「エージェント(自律的な実行)」へと進化する過程で、APIキーやトークンといった「非人間ID(Non-human Identities)」の管理が重大な経営リスクになりつつあることを示唆しています。

AIエージェントの台頭と「非人間ID」の爆発的増加

生成AIの活用フェーズは、人間がチャットボットに質問する段階から、AIが自律的にツールを使いこなし業務を遂行する「AIエージェント」の段階へと移行しつつあります。ここで看過できないのが、AIが外部システム(データベース、SaaS、クラウドインフラなど)にアクセスするために必要な認証情報の扱いです。

これまで、セキュリティの中心は「人間」の認証(ID/パスワード、多要素認証など)にありました。しかし、AIエージェントがシステム間で連携して動くには、APIキー、アクセストークン、証明書といった「非人間ID(Non-human Identities)」が必要です。GitGuardianの今回の資金調達は、AIエージェントの普及に伴い、これらのマシンIDが爆発的に増加し、従来の境界型防御やID管理(IAM)では守りきれない「セキュリティの死角」が生まれていることへの警鐘と言えます。

「シークレット」の拡散リスクと開発現場の実態

GitGuardianはもともと、ソースコード内にハードコードされた機密情報(シークレット)を検知する技術に強みを持ちます。AI開発の現場、特にスピード感を重視するPoC(概念実証)やアジャイル開発の過程では、開発者が意図せずAPIキーをGitHubなどのリポジトリや、あるいはLLMへのプロンプト内に含めてしまうリスクが常につきまといます。

特に日本企業においては、開発をSIerや外部パートナーに委託するケースが多く、コードや認証情報の管理主体が曖昧になりがちです。また、現場主導で「シャドーAI」的にツール導入が進むと、情シスの管理が及ばない場所で強力な権限を持つAPIキーが生成され、放置される「シークレットスプロール(機密情報の無秩序な拡散)」が発生します。攻撃者は人間のパスワードを破るよりも、流出したAPIキーを拾って正規のルートからシステムに侵入する方が、はるかに容易かつ検知されにくいのが実情です。

AIによるコーディング支援の功罪

CopilotなどのAIコーディング支援ツールの普及も、この問題を複雑化させています。AIが生成したコードに、学習データ由来の古い認証情報が含まれていたり、開発者がテスト用に埋め込んだキーをAIがそのまま本番コードとして提案し、人間が見落としてコミットしてしまう事例も報告されています。

AIエージェントが高度化すればするほど、エージェント自身が新たなコードを生成・実行したり、新たなAPI接続を試みるシナリオも想定されます。その際、「誰(どのマシン)」が「どの権限」でアクセスしたのかを厳密に追跡・制御できなければ、AIは業務効率化のツールから、セキュリティホールの塊へと変貌しかねません。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGitGuardianの動向は、日本企業がAIエージェントを実務に組み込む際に考慮すべき、以下の重要な視点を提供しています。

  • 「人間中心」から「マシン中心」のID管理へ意識を転換する
    従業員のID管理だけでなく、AIエージェントやボットが使用するAPIキーやサービスアカウントの棚卸しとライフサイクル管理(定期的なローテーションなど)を徹底する必要があります。
  • 開発プロセスにおける「シークレット検知」の自動化
    特に外部ベンダーと連携する場合、納品されたコードや利用するコンテナに機密情報が埋め込まれていないか、GitGuardianのようなツールを用いてCI/CDパイプライン上で自動検知する仕組み(DevSecOps)の構築が急務です。
  • プロンプトインジェクションと権限の最小化
    AIエージェントが悪意あるプロンプトによって操作された場合でも被害を最小限に抑えるため、エージェントに付与するAPIキーの権限は「必要最小限(Least Privilege)」に絞るという原則を厳格に適用してください。

AIの自律性が高まるこれからの時代、ガバナンスの対象は「人」だけでなく「AIそのもののアイデンティティ」へと拡大しています。利便性を享受するためには、こうした足元の技術的なセキュリティ基盤の再構築が不可欠です。

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