GoogleがGeminiにおいて、ChatGPTなどの他社AIツールからの会話履歴インポート機能をテストしていると報じられました。これは単なる機能追加にとどまらず、生成AI市場における「ベンダーロックイン」の解消と、企業が蓄積した「コンテキスト(文脈)資産」の重要性が高まっていることを示唆しています。2026年を見据えたAI活用のあり方と、日本企業が取るべき戦略について解説します。
プラットフォーム間の「壁」が崩れる兆し
Googleが開発中のGeminiの新機能として、ChatGPT等の他社プラットフォームから過去の会話履歴をインポート可能にするテストが行われているとの報道がありました。これまで、生成AIの活用においては「どのモデルが最も賢いか」という性能競争が主眼に置かれてきましたが、この動きは競争の軸が「相互運用性(インターオペラビリティ)」や「エコシステム」へとシフトしつつあることを示しています。
企業や個人が特定のAIモデルを使い続ける最大の理由は、そこに蓄積された「文脈(コンテキスト)」です。過去の対話、プロジェクトの背景、好みのスタイルといったデータが蓄積されるほど、AIの回答精度はユーザーに最適化されます。Googleのこの動きは、ChatGPTに蓄積されたこの「文脈資産」を吸い上げ、ユーザーのスイッチングコスト(乗り換え障壁)を劇的に下げることを狙った戦略と言えます。
「プロンプトエンジニアリング」から「コンテキスト管理」へ
元記事のタイトルにある「2026年のプロンプトエンジニアリング」という視点は、今後のAI活用の重要な変化を示唆しています。初期の生成AIブームでは、いかに巧みな命令文(プロンプト)を書くかというテクニックが重視されました。しかし、モデルの性能向上とコンテキストウィンドウ(AIが一度に記憶・処理できる情報量)の拡大に伴い、重要になるのは「過去の膨大なやり取りをいかに有効活用するか」です。
AIが過去の会話履歴をすべて参照できるようになれば、毎回ゼロから前提条件を説明する必要がなくなります。つまり、将来的なAI活用スキルとは、単発の指示出しではなく、AIとの長期的な対話履歴をどのように整理・保存し、必要に応じて異なるモデル間で移行・活用できるかという「データマネジメント」の領域に近づいていくでしょう。
日本企業におけるリスクとガバナンスの課題
この「履歴移行」の流れは、日本企業にとって利便性と同時に新たなリスクも提示しています。
まず、情報セキュリティの観点です。ChatGPT上の会話ログをGemini(Google Workspace環境)へ移行する場合、異なるクラウドベンダー間でのデータ移動が発生します。日本企業の多くは、利用するAIサービスごとに利用規約やデータ保護ポリシー(APPI:改正個人情報保護法などへの対応)を厳密に審査しています。「ChatGPT利用時のガイドライン」と「Gemini利用時のガイドライン」が異なる場合、安易なデータ移行はコンプライアンス違反や意図しない情報漏洩につながる恐れがあります。
また、特定のベンダーに依存しない「マルチLLM戦略」をとる企業が増えていますが、対話履歴という非構造化データがポータブルになることで、従業員が会社の許可なくデータを持ち出す「シャドーIT」ならぬ「シャドーAIデータ移行」のリスクも考慮する必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のGoogleの動きと将来のトレンドを踏まえ、日本の意思決定者や実務者は以下の点を意識すべきです。
- 対話データの「資産化」を意識する:
従業員がAIと交わした対話は、業務ナレッジの塊です。特定のSaaS内に閉じ込めるのではなく、将来的に他モデルへ移行・統合可能な形式で管理できるか、ベンダー選定時に「データエクスポート/インポート機能」の有無を確認項目に加えるべきです。 - マルチモデル環境のセキュリティ基準統一:
OpenAI(Azure)、Google(Gemini)、Anthropic(Claude / AWS)など、複数のAIを使い分けることが当たり前になりつつあります。プラットフォーム間でデータが移動することを前提に、各サービスのセキュリティ設定や入力データの機密性ランクを統一的な基準で管理する必要があります。 - プロンプトの標準化と共有:
特定のモデルでしか動かない「癖のあるプロンプト」への依存度を下げ、論理的で構造化された指示出し(どのモデルでも意図が通じる指示)を組織文化として定着させることが、将来的な技術的負債を防ぐ鍵となります。
