海外SNSを中心に、ChatGPTを活用して「自分の職業や専門性を象徴するアイテムに囲まれたカリカチュア(似顔絵)」を生成するトレンドが生まれています。一見すると単なるエンターテインメントに見えるこの現象ですが、日本企業にとっては「顔出し文化」との親和性や、従業員の生成AIリテラシー向上、そして著作権・セキュリティリスクを学ぶ絶好のケーススタディとなります。
職業的アイデンティティをAIで表現するトレンド
最近、海外のSNSやコミュニティを中心に、ChatGPT(特に画像生成モデルDALL-E 3を統合した機能)を利用して、自身の写真をベースにした「職業的カリカチュア」を作成する動きが注目されています。これは、単に自分に似たキャラクターを作るだけでなく、PC、設計図、医療器具、法律書など、その人の職業を象徴するアイテムに囲まれた構図で生成される点が特徴です。
「Cute but still professional(キュートだが、あくまでプロフェッショナル)」と評されるこのトレンドは、個人のブランディングにおける新しい表現手法と言えます。生成AIの指示(プロンプト)によって、自身の専門性を視覚的に分かりやすく、かつ親しみやすい形で表現できるため、LinkedInなどのビジネスSNSや社内チャットツールのアイコンとして採用する例も見られます。
日本企業における「アバター文化」との親和性
このトレンドは、日本のビジネス環境において意外な親和性を持っています。欧米に比べ、日本では実名・顔写真の公開に抵抗感を持つビジネスパーソンが少なくありません。しかし、リモートワークの普及により、デジタル上でのプレゼンスや「人となり」の伝達は以前より重要になっています。
自身の特徴を捉えつつも、直接的な顔写真ではない「AI生成アバター」は、プライバシーを守りながら個性を表現したいという日本のニーズに対する一つの解となり得ます。社内SlackやTeams、あるいは採用広報のインタビュー記事などで、無機質なデフォルトアイコンの代わりに、職業的誇りを反映したAIアバターを使用することは、組織内の心理的安全性やコミュニケーションの活性化に寄与する可能性があります。
実務視点で見るリスク:著作権と入力データ管理
一方で、企業としてこのトレンドを業務や公式な場に取り入れる際には、冷静なリスク管理が求められます。特に注意すべきは以下の2点です。
第一に、著作権とスタイルの模倣です。ユーザーが「ピクサー風」「特定のアニメ作家風」といった指示を出すことで、既存の知的財産権を侵害するような画像が生成されるリスクがあります。個人利用の範囲を超え、企業の公式資料やWebサイトでこれらを使用する場合、意図せず著作権侵害やブランド毀損につながる恐れがあります。
第二に、入力データの取り扱い(データプライバシー)です。従業員が自身の顔写真を生成AIサービスにアップロードする際、そのデータがAIの学習に利用される設定になっていないか確認する必要があります。特に、社内で撮影した写真に機密情報(背景のホワイトボードや書類など)が映り込んでいる場合、意図せぬ情報漏洩のリスクとなります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のトレンドは「画像生成」という分かりやすい事例ですが、ここから日本企業が得るべき示唆は、ツール活用の是非だけにとどまりません。
- 「遊び」を通じたリテラシー向上:
堅苦しい研修よりも、こうした「自分のアイコンを作る」といった身近な体験の方が、従業員がプロンプトエンジニアリングのコツやAIの特性(ハルシネーションやバイアス含む)を学ぶ入り口として効果的な場合があります。 - ガバナンスと創造性のバランス:
「全面禁止」にするのではなく、「入力データに個人情報や機密情報を含めない」「生成物の商用利用時は著作権チェックを行う」といった具体的なガイドラインを策定し、安全な範囲で従業員の創造性を引き出す姿勢が重要です。 - 日本的なコミュニケーションへの応用:
顔出しNGの文化を逆手に取り、AIアバターを公式な社内コミュニケーションツールとして認めるなど、組織文化に合わせた柔軟なAI導入が、DX推進の潤滑油となるでしょう。
