19 1月 2026, 月

生成AIへの移行が招く「機能の退化」──Google Geminiの事例から学ぶ、AIプロダクト開発の現実解

Googleのアシスタント機能が従来の「Google Assistant」から生成AIベースの「Gemini」へ移行する過程で、ユーザー体験の一部が損なわれているという報告が話題を集めています。この事例は、既存の確定的なシステムを確率的なLLM(大規模言語モデル)に置き換える際に生じる典型的な課題を浮き彫りにしています。本稿では、この事象を単なるガジェットのニュースとしてではなく、企業が生成AIを既存製品や業務プロセスに統合する際の「教訓」として読み解きます。

「賢くなったはずが、不便になった」というパラドックス

Googleのスマートホームデバイスにおいて、音声アシスタント機能が従来のGoogle AssistantからGeminiへと移行しつつあります。しかし、海外のテックコミュニティやユーザーフォーラム(Reddit等)では、この移行によって「これまでは当たり前にできていたこと」ができなくなったという不満の声が上がっています。

具体的には、「Continued Conversation(会話の継続)」機能の欠如が指摘されています。これは、一度ウェイクワード(「OK Google」など)で起動した後、再度ウェイクワードを言わなくても連続して命令を受け付ける機能ですが、Geminiベースのシステムではこれがスムーズに動作しない、あるいは機能自体がサポートされていないケースがあるようです。また、電話をかける、タイマーをセットするといった極めて基本的なタスクにおいても、応答精度や速度が劣化しているとの報告があります。

これは、世界最高峰の技術力を持つGoogleであっても、レガシーなルールベースAIから生成AI(LLM)への完全移行には、UX(ユーザー体験)上の大きな摩擦が伴うことを示しています。

「確定的処理」と「確率的生成」のジレンマ

なぜ、最新のAIであるGeminiが、数年前からあるアシスタント機能に劣る場面が出てくるのでしょうか。これは、システムのアプローチが根本的に異なることに起因します。

従来のGoogle Assistantは、主に「コマンド型」や「スロットフィリング型」と呼ばれる処理を行っていました。ユーザーの音声から意図(Intent)とパラメータ(Entity)を抽出し、あらかじめプログラムされた動作を確実に実行します。これは「確定的」な処理であり、タイマー設定や家電操作といった定型タスクにおいては、高速かつ正確です。

一方、GeminiなどのLLMは「確率的」に次の単語を予測して回答を生成します。柔軟な対話や複雑な推論は得意ですが、単純な命令をAPI呼び出しに変換する際にも、一度モデルを通すためのレイテンシ(遅延)が発生したり、文脈を深読みしすぎて誤った挙動をしたりするリスクがあります。いわゆる「Overkill(過剰性能)」の状態になり、単純作業のUXを損ねてしまっているのです。

日本企業が直面する「チャットボット刷新」の課題

このGoogleの事例は、日本の多くの企業がいま直面している課題と重なります。現在、コールセンターの自動応答や社内ヘルプデスク、自社プロダクトのUIを、従来のシナリオ型チャットボットからChatGPTなどのLLMベースに置き換えようとする動きが活発です。

しかし、ここで「LLMなら何でもできる」と過信して安易に置き換えると、以下の問題が発生します。

第一に、「正確性の欠如」です。日本の商習慣や顧客対応では、曖昧さよりも正確性が求められます。「なんとなく人間らしい会話」ができても、商品の型番を間違えたり、誤った手続きを案内したりすれば、クレームに直結します。

第二に、「レスポンスの遅延」です。日本のユーザーはWebやアプリの挙動に対して非常に厳しい目を持っています。LLMの推論を待つ数秒のラグは、「サクサク動く」体験を損ない、離脱率を高める要因になります。

日本企業のAI活用への示唆

Googleの試行錯誤から、日本企業の実務担当者が得るべき教訓は以下の3点です。

1. ハイブリッド構成(オーケストレーション)の徹底
すべての処理をLLMに丸投げするのではなく、LLMを「司令塔(Router)」として使い、定型タスク(予約、検索、計算など)は従来の確実なプログラムやAPIに任せる「Function Calling(機能呼び出し)」の設計を徹底する必要があります。Googleも現在この統合を進めていますが、実務レベルでは「ルールベースで済むところはルールベースのまま残す」という判断が、コストと品質の両面で重要です。

2. 「劣化」を許容しないUX設計と期待値調整
生成AI導入によって「できること」は増えますが、同時に「できていたこと」の品質が下がるリスクがあります。特に日本の現場(工場、医療、金融など)では、既存機能の劣化は致命的です。PoC(概念実証)の段階で、新規性だけでなく「回帰テスト(既存機能が壊れていないかの確認)」を重点的に行うべきです。

3. プライバシーと利便性のバランス
今回のニュースで話題になった「会話の継続」は、AIが常に文脈を保持し、音声を聞き続けることを意味します。日本ではプライバシーに対する懸念が強いため、便利な機能であっても「いつAIが聞いているか」をユーザーに明示するUIや、データの取り扱いに関する透明性(ガバナンス)の確保が、欧米以上にプロダクトの信頼性を左右します。

結論として、生成AIは「魔法の杖」ではなく、適材適所で組み込むべき「部品」です。Googleのようなテックジャイアントですら移行に苦戦している事実を直視し、既存資産と最新技術を賢く組み合わせる現実的なアプローチこそが、日本企業のDXを成功させる鍵となります。

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