6 2月 2026, 金

Geminiの活用事例に学ぶ、経理・財務領域における生成AIの可能性と「数字」を扱う際のリスク管理

Googleは同社の生成AI「Gemini」を活用した予算計画や支出追跡のノウハウを公開しました。これは個人の家計管理に向けたトピックですが、企業の管理部門やDX推進担当者にとっては、財務・経理業務におけるAI活用のヒントとなります。本記事では、このニュースを起点に、日本企業が「数字」や「機密情報」を扱う業務で生成AIを導入する際の実践的なアプローチと、不可避なリスクへの対策について解説します。

個人向け「予算管理」から読み解く、企業バックオフィスのAI活用

Googleが紹介したGeminiの活用法は、予算の作成、支出の追跡、そして節約ポイントの特定という、極めて日常的なタスクに焦点を当てたものでした。しかし、これを企業活動、特にFP&A(Financial Planning & Analysis)や経理業務に置き換えると、生成AIが持つ「非構造化データの解釈力」の重要性が浮き彫りになります。

日本の多くの企業では、依然としてExcelを中心としたバケツリレー形式で予算策定や予実管理が行われています。各部署から上がってくるコメント(定性データ)と数値(定量データ)を突き合わせ、差異の理由を分析する作業は多大な労力を要します。GeminiのようなLLM(大規模言語モデル)は、こうした「数値の背景にある文脈」を読み解くタスクにおいて高い親和性を持ちます。例えば、勘定科目の仕訳推奨や、予実差異に対する一次コメントのドラフト作成などは、国内でも実証実験が進んでいる領域です。

生成AIは「電卓」ではない:計算能力の限界とハルシネーション

財務領域でAIを活用する際、エンジニアや実務担当者が最も注意すべき点は、LLMは本質的に「計算機」ではないということです。Geminiを含む現在の多くのモデルは、確率論に基づいて次の単語(トークン)を予測しており、複雑な計算において誤った答えを出力する(ハルシネーション)リスクが残ります。

したがって、日本企業がこの技術を業務に組み込む場合、LLMに直接計算させるのではなく、LLMを「インターフェース」として利用し、計算処理自体はPythonコードの実行(Code Interpreter機能など)や外部の計算エンジンに行わせるアーキテクチャが必須となります。「AIが言っているから正しい」という盲信は、コンプライアンス重視の日本企業において致命的なミスにつながりかねません。

機密情報の取り扱いと「シャドーAI」のリスク

経理・財務データは、企業にとって最高レベルの機密情報(機微情報)です。Googleの一般消費者向け無料版ツールに、自社のPL(損益計算書)や未公開の予算データをそのまま入力することは、情報漏洩のリスクに直結します。

企業で活用する場合は、学習データとして利用されないことが保証された「Enterprise版」の契約や、API経由での利用が前提となります。しかし、現場レベルでは「便利だから」という理由で、個人のアカウントで業務データを処理してしまう「シャドーAI」の問題が顕在化しつつあります。日本企業特有の「現場の工夫」が、意図せずセキュリティホールにならないよう、ツールの導入とセットで明確な利用ガイドラインを策定することが急務です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGeminiの事例は、AIが「数字とテキストを行き来するタスク」に有用であることを示しています。日本企業がこれを実務に落とし込むための要点は以下の通りです。

  • 用途の明確化と住み分け:定型的な計算や集計は既存のシステムやRPAに任せ、生成AIは「データの解釈」「異常値の検知」「レポートの要約」など、人間が判断するための材料作り(非定型業務)に特化させるべきです。
  • データガバナンスの徹底:財務データを扱う際は、パブリックなAIサービスへの入力制限を技術的・制度的に設ける必要があります。閉域網やオプトアウト設定が可能な環境構築への投資は、リスク管理コストとして正当化されるべきです。
  • 「人間による確認」プロセスの維持:AIのアウトプットを最終決定とするのではなく、あくまでドラフト(下書き)として扱い、最終的な数字の責任は人間が持つという運用フローを崩さないことが、品質管理の観点から重要です。

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