グローバルな電子部品・ソリューションプロバイダーであるAvnetの最新調査によると、エンジニアによるAI製品の出荷数は増加傾向にあるものの、その品質や信頼性に対する「自信」は依然として不均一であることが明らかになりました。本記事では、このギャップが生まれる背景を分析し、品質を重視する日本企業が生成AIやLLM(大規模言語モデル)を実製品に組み込む際に直面する「信頼性の壁」をどう乗り越えるべきか、実務的な視点で解説します。
PoCを越え、実製品へのAI搭載が加速
かつて「PoC(概念実証)疲れ」という言葉が流行しましたが、世界のR&D(研究開発)現場では、すでにそのフェーズを抜け出しつつあります。Avnetの調査結果が示唆するのは、エンジニアたちが実際にAIを搭載した製品やサービスを「出荷」し始めているという事実です。
しかし、ここで注目すべきは「製品はリリースされているが、エンジニア自身の確信(Confidence)は追いついていない」という点です。これは、従来のソフトウェア工学における「決定論的(入力が決まれば出力が決まる)」な開発と、現在のAI、特に生成AIにおける「確率的(出力が揺らぐ)」な挙動との間に、品質保証(QA)のギャップが存在することを示しています。
日本の製造業やシステム開発現場において、品質へのコミットメントは絶対的なものです。AI機能の実装を急ぐあまり、この「確信の欠如」を放置したまま市場投入することは、日本企業のブランド毀損リスクに直結しかねません。
「外部モデル」への依存とサプライチェーン・リスク
同調査で興味深いデータとして、「47%のエンジニアが、自社組織外のエンジニアによってトレーニングされたLLMを使用することを好む」という点が挙げられます。これは、自社でゼロからモデルを構築する(フルスクラッチ)よりも、OpenAIやGoogle、あるいはMetaなどのビッグテックやオープンソースコミュニティによって鍛え上げられた「基盤モデル」を利用する方が、性能と効率の面で合理的であると判断されていることを意味します。
しかし、これは同時に「AIのサプライチェーン・リスク」を受け入れることでもあります。外部モデルに依存するということは、そのモデルの学習データの透明性、バイアス、あるいは将来的なAPIの仕様変更や提供停止のリスクを自社製品の中に抱え込むことになります。
日本企業がこれを採用する場合、単に「性能が良いから」という理由だけで選定するのではなく、AIガバナンスの観点から、利用規約、データプライバシー、そしてベンダーロックインのリスクを法務・知財部門と連携して精査する必要があります。特に欧州の「AI法(EU AI Act)」など、グローバルな規制対応が必要な製品では、外部モデルの透明性が問われる場面が増えるでしょう。
エンジニアリング・アシスタントとしてのAI活用
記事では、エンジニアが技術的な質問のためにLLMを活用していることにも触れられています。日本国内でも、GitHub Copilotなどのコーディング支援ツールや、社内ドキュメントを検索・要約するRAG(検索拡張生成)システムの導入が進んでいます。
ここで重要なのは、「若手エンジニアの育成」と「ベテランの知見継承」への影響です。AIが答えを出すことで業務効率は上がりますが、プロセスを理解しないままコードを採用する「ブラックボックス化」が進む懸念があります。日本の現場では、AIが出力した回答をエンジニアが批判的に検証(クリティカル・チェック)できる能力を維持・向上させる教育プログラムが、これまで以上に重要になります。
日本企業のAI活用への示唆
グローバルの動向と日本の商習慣を踏まえ、AI活用を進める意思決定者への示唆を以下に整理します。
- 「品質」の再定義とガイドライン策定:
AIに「100%の正解」を求める従来の品質保証は通用しません。「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」が起こり得ることを前提とし、誤動作時のフェールセーフ(安全装置)や、ユーザーへの免責事項の明示など、リスク許容度を含めた新しい品質ガイドラインを策定してください。 - 外部モデル利用時のガバナンス強化:
「作るAI」から「使うAI」へのシフトは合理的ですが、外部モデルを利用する際は、SLA(サービス品質保証)やデータ処理契約(DPA)を厳格に確認する必要があります。特に機密情報を扱う場合は、Azure OpenAI Serviceのような企業向け環境や、ローカルで動作する小規模モデル(SLM)の活用を検討すべきです。 - Human-in-the-Loop(人間による確認)の徹底:
エンジニアがAIの出力に「自信」を持てない段階では、最終的な判断をAIに委ねてはいけません。開発プロセスにおいても、顧客対応においても、必ず人間が最終確認を行うフローを組み込み、徐々に信頼度を高めていく「段階的な導入」が、日本企業の信頼を守る鍵となります。
