2 2月 2026, 月

生成AI×ARグラスが切り拓く「ハンズフリー・エージェント」の可能性——Rokidの最新動向と日本企業への示唆

中国のARグラスメーカーRokidが、大手LLM開発企業と提携し、AIエージェント機能をOSレベルで統合した次世代グラスの開発を発表しました。単なる「情報の表示」を超え、物理世界とデジタルをAIがつなぐこの動きは、日本の現場業務や顧客体験にどのような変革をもたらすのでしょうか。

ウェアラブルデバイスの「エージェント化」が進む背景

AR(拡張現実)グラスを手掛けるRokidが、中国の大手LLM(大規模言語モデル)開発企業と提携し、次世代の「AIエージェントグラス」を開発しているというニュースは、ハードウェアとAIの融合における重要な転換点を示唆しています。これまでスマートグラスといえば、スマートフォンの通知を表示したり、動画を空中に投影したりする「ディスプレイの延長」としての側面が強いものでした。

しかし、今回の発表で強調されているのは、新しい「エージェント駆動型OS」の搭載です。これは、ユーザーがメニュー画面を操作してアプリを選ぶ従来のUI(ユーザーインターフェース)ではなく、ユーザーの発話や視線、周囲の状況をAIが理解し、能動的に必要な情報や機能を提供する仕組みを指します。LLMがOSの中核に組み込まれることで、デバイスは単なる表示装置から、文脈を理解する「秘書(エージェント)」へと進化しようとしています。

日本企業の「現場」における活用ポテンシャル

この「AIエージェント化されたARグラス」は、日本のビジネス環境、特に「現場(Gemba)」を持つ産業において極めて高い親和性を持っています。

例えば、製造業や建設業、インフラ点検の現場では、人手不足と熟練工の高齢化が深刻な課題です。従来、マニュアルを参照するために作業の手を止めたり、タブレットを取り出したりする必要がありました。しかし、エージェント機能を備えたグラスであれば、「この配線の接続先を教えて」と話しかけるだけで、AIが視界にある機器を認識し、正確な配線図を現実空間にオーバーレイ表示することが可能になります。

また、接客や観光業においても、インバウンド対応におけるリアルタイム翻訳や、顧客の属性に合わせた推奨情報の提示など、ハンズフリーで質の高いサービスを提供する助けとなるでしょう。日本企業が強みを持つ「きめ細やかな現場力」を、AIエージェントが補完・強化するシナリオが描けます。

導入におけるリスクとガバナンスの課題

一方で、実務導入にあたってはいくつかのハードルが存在します。最大の懸念点は「プライバシー」と「データガバナンス」です。

ARグラスは常にカメラで周囲を撮影・認識する可能性があります。従業員の行動監視につながるという懸念や、顧客や第三者のプライバシー侵害のリスクに対して、従来の防犯カメラ以上に厳格な運用ルールが求められます。また、機密情報が映り込んだ映像データが、クラウド上のLLM(特に海外ベンダーのサーバー)に送信されることへのセキュリティ懸念も無視できません。

特に今回のニュースのように、基盤となるLLMが中国ベンダー製である場合、経済安全保障や情報管理の観点から、導入を躊躇する日本企業も少なくないでしょう。今後は「オンデバイスAI(端末内で処理が完結するAI)」とクラウドAIをどのように使い分けるか、あるいは国産LLMやセキュアなプライベートクラウドと連携できるハードウェアを選択できるかが、導入の成否を分ける鍵となります。

日本企業のAI活用への示唆

今回のRokidの事例は、生成AIの主戦場がチャットボットから「物理世界への介入」へと広がりつつあることを示しています。日本企業としては、以下の3点を意識して準備を進めるべきです。

1. 「ハンズフリー×AI」の業務選定
デスクワークの効率化だけでなく、両手がふさがる現場業務において、AIエージェントがどのような価値を出せるか、具体的なユースケースの洗い出しを始めてください。特に「技術伝承」や「多言語対応」は有力な領域です。

2. ハードウェアとAIの分離評価
デバイス(ハードウェア)の性能と、その背後にあるAIモデル(ソフトウェア)の信頼性を分けて評価する必要があります。特に機密情報を扱う業務では、データがどこに保存され、学習に利用されるのか、ベンダーの規約とアーキテクチャを厳密に確認するガバナンス体制が不可欠です。

3. 従業員体験(EX)の設計
AIグラスは身体に装着するデバイスであるため、重量や装着感、そして「常に見られている・指示されている」という心理的ストレスへの配慮が必要です。トップダウンでの導入ではなく、現場の作業者の声を反映しながら、受容性を高めるプロセスが求められます。

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