2 2月 2026, 月

構造化データの予測分析にLLMはどう使えるか:医療分野の事例から読み解く新たな可能性と課題

大規模言語モデル(LLM)はチャットボットや要約だけでなく、数値やカテゴリ変数を含む「構造化データ」の分析にも応用され始めています。本記事では、肝線維化の予測にLLMを用いた最新の医学研究を題材に、LLMを従来の機械学習タスクに適用する際のアプローチ、メリット、そして実務上のリスクについて、日本企業の視点から解説します。

医療診断支援におけるLLMの新たなアプローチ

生成AIのブーム以降、LLMの主な用途は文書作成、翻訳、要約、そしてチャットボットが中心でした。しかし、最新の研究動向では、これまで従来の機械学習モデル(ロジスティック回帰やXGBoostなど)が担ってきた「予測・分類タスク」にLLMを活用しようとする試みが増えています。

今回取り上げる事例は、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)における進行した肝線維化を予測するためにLLMを使用したという概念実証(PoC)です。具体的には、NHANES(米国国民健康栄養調査)のデータセットから得られる患者の年齢、BMI、検査数値といった「構造化データ」を自然言語のプロンプト(指示文)に変換し、LLMに「この患者は肝線維化のリスクが高いか?」を判断させるという手法をとっています。

このアプローチの興味深い点は、数値を単なるデータとして計算するのではなく、文脈を持った「患者のストーリー」としてLLMに読ませ、その医学的知識に基づいて推論させている点にあります。

なぜ「予測モデル」にLLMを使うのか?

通常、数値データの予測であれば、特化型の機械学習モデルの方が計算コストも低く、精度も安定する傾向にあります。それにもかかわらず、なぜLLMを用いるのでしょうか。そこにはいくつかの理由があります。

  • 説明可能性(Explainability):従来のAIは「スコア0.8」と出力しても、その理由はブラックボックスになりがちでした。LLMは「BMIが高く、かつ特定の酵素数値が基準を超えているため」といった、人間が理解できる言語で根拠を提示できる可能性があります。
  • 外部知識の活用:学習データに含まれていない医学的知見や最新の論文情報を、LLMが事前学習知識として持っている場合、データ単体以上の推論を行える可能性があります。
  • 非構造化データとの統合:数値データだけでなく、電子カルテの自由記述や医師のメモなどを同時にプロンプトに入力し、総合的に判断させることが容易です。

実務適用における壁:精度、コスト、そしてハルシネーション

一方で、この手法を日本企業が実務に取り入れるには、冷静なリスク評価が必要です。最大の課題は「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」と「計算能力の欠如」です。

LLMは確率的に次の単語を予測するモデルであり、厳密な数値計算は苦手とする場合があります。医療や金融のようなミッションクリティカルな領域で、LLMが誤った予測を自信満々に出力した場合、深刻な事故につながりかねません。また、API経由で大量のデータを処理する場合、従来の軽量な機械学習モデルに比べてコストと推論時間(レイテンシ)が圧倒的に大きくなります。

日本の医療現場や製造現場のような、高い品質基準と説明責任が求められる環境では、LLM単独に判断を委ねることは、現時点ではコンプライアンスやガバナンスの観点から推奨されません。

日本企業のAI活用への示唆

今回の医療分野の研究事例は、他業界の日本企業にとっても重要な示唆を含んでいます。

1. 既存の機械学習とLLMのハイブリッド活用

数値予測などの「精度」が求められるタスクは従来の機械学習モデル(LightGBMなど)に任せ、その結果の「解釈」や、ユーザーへの「伝達」の部分をLLMに担当させるハイブリッド構成が現実的です。これにより、信頼性と利便性のバランスを取ることができます。

2. 「専門家のアシスタント」としての位置づけ

特に専門性が高い領域(医療、法務、エンジニアリング)では、AIを「自動判定機」としてではなく、判断材料を整理・提示する「高度なアシスタント」として位置づけるべきです。最終的な意思決定プロセスに人間(Human-in-the-Loop)を介在させることは、日本の法規制や組織文化においてもスムーズな導入の鍵となります。

3. ガバナンスとプロンプトエンジニアリングの標準化

構造化データをLLMに入力する際、どのようなフォーマットで記述するかによって出力結果が大きく変わります。企業内で活用する際は、入力データの変換ルールや、AIの回答に対する検証プロセスを標準化し、属人化を防ぐガバナンス体制の構築が不可欠です。

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