1 2月 2026, 日

AIグラス戦国時代へ──Meta一強に挑むRokidと、日本市場における「社会的受容性」の課題

MetaとRay-Banのコラボレーションによるスマートグラスの成功を受け、ARデバイス大手のRokidなど競合他社が続々と「AIグラス」市場へ参入しています。生成AIを搭載したアイウェアは、スマートフォンの次なるインターフェースとして急速に現実味を帯びてきました。本稿では、グローバルなハードウェア競争の現状を整理しつつ、日本企業がこの技術をビジネスに適用する際に避けて通れない「プライバシー」や「現場導入の壁」について解説します。

「没入感」から「実用性」へ:ウェアラブルAIの潮流変化

かつてスマートグラスといえば、Google Glassのような実験的なデバイスや、Microsoft HoloLensのような重厚な産業用ARヘッドセットが主流でした。しかし、現在市場を賑わせているのは、「普通のメガネに見える」軽量なデバイスです。MetaのRay-Banスマートグラスが市場に受け入れられた最大の要因は、AR(拡張現実)による視覚的なリッチさよりも、搭載された「マルチモーダルAI」による実用性を優先した点にあります。

元記事にあるRokidの参入は、このトレンドが決定的になったことを示唆しています。Rokidは本来、ディスプレイ性能を重視したARグラスを得意とする企業ですが、今回彼らが挑んでいるのは「スタイル」と「AIアシスタント」を重視した領域です。これは、カメラで見たものについてAIと対話し、翻訳や要約、検索を行うという体験が、ディスプレイ表示以上にユーザーにとって価値あるものになりつつあることを意味しています。

日本企業における活用ポテンシャル:デスクレスワーカー支援

この「AIグラス」というフォームファクタは、日本の産業構造において大きな可能性を秘めています。特に、建設、製造、物流、介護といった「現場(デスクレスワーカー)」の人手不足が深刻な日本において、ハンズフリーでのAI支援は強力なツールとなり得ます。

例えば、作業員が見ている計器の数値をAIが読み取り異常を検知する、あるいはベテラン技術者の視点を記録しながら音声でマニュアルを呼び出す、といったユースケースです。スマホを取り出すことなく、視界と音声をそのままAIへの入力(プロンプト)として使える点は、業務効率を劇的に改善する可能性があります。

また、インバウンド需要が高まる観光・小売業界においても、相手の言語をリアルタイムで認識し、骨伝導スピーカーから翻訳音声を聞くといった使い方は、接客の質を変える一手となるでしょう。

最大の障壁は「プライバシー」と「社会的受容性」

一方で、日本国内でAIグラスを展開・活用する上での最大のリスクは、技術的なスペックではなく「プライバシー」と「商習慣」にあります。日本では、スマートフォンのシャッター音が消せない仕様が標準化されるほど、無断撮影に対する社会的な警戒心が強い傾向にあります。

カメラ機能付きのメガネを着用して店舗に入ることや、オフィス内で会議に参加することに対し、抵抗感を抱く顧客や従業員は少なくありません。改正個人情報保護法やプライバシー権の観点からも、意図せず第三者が映り込んだデータの取り扱いには厳格なガバナンスが求められます。「便利だから導入する」という技術先行のアプローチでは、現場の反発や炎上リスクを招く恐れがあります。

日本企業のAI活用への示唆

AIグラス市場の立ち上がりを受け、日本の意思決定者やエンジニアは以下の点を考慮すべきです。

1. 特定業務への「特化型」導入から始める
汎用的な利用ではなく、倉庫内のピッキング、保守点検、特定の接客カウンターなど、利用エリアと目的が明確に限定された環境での導入が現実的です。これにより、プライバシーリスクをコントロールしながらROI(投資対効果)を検証できます。

2. 従業員のプライバシー保護と合意形成
着用する従業員自身の行動データも取得されることになります。労務管理上の監視強化と受け取られないよう、導入目的の透明性を確保し、労働組合や現場との丁寧な合意形成が不可欠です。

3. ハードウェアに依存しないアプリケーション設計
MetaやRokid、あるいはAppleなど、プラットフォームの覇権争いはまだ続いています。特定のハードウェアにロックインされることを避け、取得した映像・音声データをどのLLM(大規模言語モデル)で処理し、どう業務システムに連携させるかという「バックエンドの設計」に注力することが、長期的な競争力につながります。

ハードウェアの進化は、AIを「画面の中」から「現実世界」へと引き出しています。この変化をリスクとして遠ざけるのではなく、適切なガバナンスのもとで業務プロセスに組み込む準備を始めた企業が、次世代の生産性を手にするでしょう。

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