31 1月 2026, 土

AIフェーズの転換:学習から「推論」へ。生成される膨大なデータの保存と活用戦略

生成AIの導入が進む中、企業の関心はモデルの「学習」から実運用段階である「推論」へとシフトし始めています。Western DigitalのCEOが指摘するように、推論プロセス自体が新たなデータを生み出し、ストレージ需要を押し上げる要因となっています。本記事では、AIインフラの隠れた課題である「推論データ」の爆発的増加と、日本企業が採るべきデータ基盤およびガバナンス戦略について解説します。

学習データだけではない、「推論」が生み出すデータの重み

生成AIブームの初期、企業の関心は主にGPUの確保や、モデルを「学習(トレーニング)」させるためのクリーンなデータセットの整備に向けられていました。しかし、Western DigitalのCEO、Irving Tan氏が指摘するように、AI活用がPoC(概念実証)から実運用フェーズへ移行するにつれ、焦点は「推論(インファレンス)」へと移りつつあります。

推論とは、学習済みモデルに新たなデータを入力し、結果(回答や予測)を出力するプロセスです。重要なのは、この推論プロセス自体が、ログ、生成されたコンテンツ、ユーザーとのインタラクション履歴、そしてRAG(検索拡張生成)におけるベクトルデータなど、新たなデータを大量に生成し続けているという事実です。学習データは静的かつ有限ですが、推論によって生まれるデータは、サービスが稼働する限り指数関数的に増大します。

ストレージ階層化とコスト最適化の必要性

推論フェーズにおけるデータの爆発的増加は、日本企業のITインフラ予算を圧迫する可能性があります。これまではGPUのメモリ(HBM)や高速なSSDに注目が集まりがちでしたが、生成された膨大なデータをすべて高価なストレージに置くことは経済的ではありません。

ここで重要になるのが、データの「温度」に応じたストレージの階層化です。リアルタイム性が求められるベクトルインデックスや直近の会話ログは高速なフラッシュストレージ(ホットデータ)に、監査証跡や再学習用の長期ログは大容量のHDD(コールドデータ)に保存するといった、明確なティアリング(階層化)戦略が求められます。特にオンプレミスやプライベートクラウドでのAI運用を志向する日本企業においては、この物理的なインフラ設計が中長期的なTCO(総所有コスト)を左右します。

日本企業におけるガバナンスと「捨てられない」文化のリスク

日本の商習慣において、データは「念のため保存しておく」傾向が強くあります。しかし、生成AIの推論データに関しては、このアプローチはリスクを伴います。推論ログには、顧客の機微な情報や、AIが誤って生成したハルシネーション(もっともらしい嘘)が含まれる可能性があるためです。

改正個人情報保護法や、EUのAI法(AI Act)などのグローバルな規制動向を見据えると、推論データを無秩序に保存することはコンプライアンス上の地雷原となりかねません。生成されたデータに対して、「何を保存し、いつ破棄するか」というデータライフサイクルマネジメント(DLM)を、MLOps(機械学習基盤の運用)の一環として厳格に定義する必要があります。

日本企業のAI活用への示唆

以上の動向を踏まえ、日本の経営層やエンジニアは以下の3点を意識してAI戦略を見直すべきです。

1. インフラ投資配分の見直し:
初期投資としてのGPUコストだけでなく、運用フェーズ(推論)で増え続けるストレージコストと、それを管理する運用コストを試算に含めること。学習コストは一時的ですが、推論・保存コストは永続的です。

2. 「推論データ」の資産化とリスク管理:
推論結果やログを単なる「結果」として扱うのではなく、次のモデル改善のための「資産」として蓄積するパイプラインを構築すること。同時に、個人情報や機密情報が含まれていないかを自動検知するガードレール機能を実装し、ガバナンスを効かせる必要があります。

3. データの「捨て方」の設計:
日本企業特有の「すべて保存」から脱却し、法的要件と再学習の有用性に基づいたデータ保持ポリシーを策定すること。不要な推論データを保持し続けることは、ストレージコストの増大だけでなく、セキュリティリスクの増大にも直結します。

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