30 1月 2026, 金

顧客接点は「自社アプリ」から「AIプラットフォーム」へ:Accorの事例が示唆する検索体験の転換点

世界的なホテルチェーン大手Accorが、ChatGPT上で直接ホテル検索を行えるアプリ(機能)の提供を開始しました。この動きは、単なるチャットボットの導入にとどまらず、ユーザーの検索行動の変化を見越した「AIプラットフォームへのサービス統合」という重要なトレンドを示唆しています。本記事では、この事例をもとに、日本企業が直面する新たな顧客接点のあり方と、実装における実務的なポイントを解説します。

「AIの中で検索が完結する」時代の到来

フランスに拠点を置く世界的なホスピタリティグループであるAccorは、ChatGPT内で動作するアプリ(GPTsやプラグインのような形態)を展開し、ユーザーがチャット画面から離れることなく、日付や要望を指定してホテルを検索できる環境を構築しました。

これまで多くの日本企業が進めてきたAI活用は、自社のWebサイトやアプリの中にAIチャットボットを「埋め込む」というアプローチが主流でした。しかし、Accorの事例は逆のアプローチです。すなわち、数億人のユーザーを抱える「ChatGPTという巨大なプラットフォーム」の中に、自社のサービスを「出店」させるという戦略です。ユーザーは旅行代理店のサイトを回遊することなく、AIとの対話の中で「来週のパリへの出張で、Wi-Fiが強くて朝食が美味しいホテルを探して」と自然言語で依頼し、候補の提示を受けることができます。

キーワード検索から「意図」の検索へ

この変化の本質は、ユーザーインターフェース(UI)のパラダイムシフトにあります。従来のWeb予約システムでは、ユーザーは「場所」「日付」「人数」といったフィルターを自分で設定し、一覧から条件に合うものを探す必要がありました。しかし、生成AIを介した検索では、ユーザーの「意図(インテント)」が優先されます。

例えば、「静かな場所でワーケーションがしたい」といった曖昧な要望は、従来の検索フィルターでは扱いにくいものでした。しかしLLM(大規模言語モデル)は、文脈からニーズを汲み取り、それに合致した施設を提案できます。これは顧客体験(UX)の劇的な向上につながる一方で、サービス提供側には、自社の商品データをAIが理解・解釈しやすい形で整備しておくことが求められるようになります。

ハルシネーション対策とAPI連携の重要性

実務的な観点から見ると、このような機能を実装する際に最大の懸念となるのが「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」です。AIが実在しない空室状況や、間違った価格を回答してしまえば、企業の信用問題や法的リスクに直結します。

これを防ぐためには、AIに自由作文させるのではなく、Function Calling(関数呼び出し)などの技術を用いて、自社のデータベースAPIから正確な最新情報を取得し、その結果をAIに表示させるアーキテクチャが不可欠です。つまり、生成AIはあくまで「ユーザーの言葉をAPIへの命令に翻訳するインターフェース」として機能させ、データの正確性は自社の基幹システム側で担保するという役割分担です。Accorの事例も、背後には堅牢なAPI連携が存在していると考えられます。

日本企業のAI活用への示唆

Accorの取り組みは、日本の旅行・小売・サービス業界にとっても対岸の火事ではありません。今後のAI戦略において考慮すべきポイントを以下に整理します。

1. 「AIエコシステム」への参画を検討する
自社サイトへの集客だけでなく、ChatGPTやその他のAIプラットフォーム(Google GeminiやMicrosoft Copilotなど)上で、自社サービスがいかに発見され、利用されるかを設計するフェーズに来ています。「AIに選ばれるためのSEO(Search Engine Optimization)」ならぬ「GEO(Generative Engine Optimization)」の視点が必要です。

2. データの構造化とAPIの整備
AIが自社の在庫やサービス内容を正確に参照できるよう、データの整備が急務です。AI活用というとモデルの選定ばかりに目が向きがちですが、実務上は「APIの整備」と「メタデータの構造化」こそが、AI時代における競争優位の源泉となります。

3. リスクコントロールと期待値調整
日本の商習慣において、情報の誤りは厳しいクレームにつながります。AI連携を行う際は、必ず「AIによる回答であること」の明示や、最終的な予約確定前の人間による確認ステップを設けるなど、技術的なガードレールとUI上の工夫によるリスク管理が求められます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です