28 1月 2026, 水

米国で登場した「交渉するAIエージェント」Mighty。その衝撃と、日本企業が直視すべき法規制・実務の壁

米国のスタートアップMightyがステルスモードを脱し、人身傷害(交通事故等)の被害者に代わって保険会社と交渉する「AIエージェント」を発表しました。単なる文書作成支援を超え、AIが自律的に外部と折衝を行うこの事例は、AI活用の新たなフェーズを示唆しています。本稿では、この「エージェンティックAI」のトレンドを解説するとともに、日本の法規制や商習慣において同様の技術をどう適用すべきか、その可能性とリスクを論じます。

「支援」から「代行」へ:AIエージェントの台頭

米国で注目を集めているMightyは、交通事故などの人身傷害請求において、被害者(原告)の代わりに保険会社との交渉や警察署からの事故証明書取得を行うAIサービスです。これまでのリーガルテック(法律×IT)の多くは、弁護士が判例を検索したり、契約書のドラフトを作成したりする「専門家支援ツール」でした。しかし、Mightyが提示しているのは、AIそのものが主体的に外部システムや人間とインタラクションを行う「AIエージェント」としての役割です。

生成AIの進化は、チャットボットのように人間と対話する段階から、複雑なタスクを自律的に遂行する「エージェンティック(Agentic)ワークフロー」へと移行しつつあります。Mightyの事例は、AIが単に情報を整理するだけでなく、「交渉」という高度な意思決定と駆け引きを含むプロセスすらも担い始めていることを示しており、グローバルなAIトレンドの最先端を行くものです。

日本における「非弁行為」の壁と法的リスク

この米国の事例をそのまま日本に持ち込むことができるかというと、法制度の観点から極めて高いハードルが存在します。日本では弁護士法第72条により、弁護士以外の者が報酬を得て法律事務(交渉や和解など)を行うこと(非弁行為)は禁止されています。AI自身は「者(法人・自然人)」ではありませんが、そのAIサービスを提供する事業者が、実質的に無資格で法律事務を取り扱っているとみなされるリスクが高いためです。

また、日本国内の商習慣としても、保険会社や行政機関が「AIとの交渉」を正規の手続きとして受け入れる土壌はまだ整っていません。責任の所在が曖昧なAIによる交渉結果に対し、法的な拘束力をどう認めるかという議論も未成熟です。したがって、日本企業が同様のサービスを開発・導入する場合、まずは「弁護士の監督下での補助業務」や「定型的な行政手続きの自動化」といった領域から検討する必要があります。

実務への応用:定型業務の自動化とコンプライアンス

しかし、Mightyの技術的アプローチ自体は、日本の産業界にとっても非常に有益な示唆を含んでいます。特に「複数の関係者(システムや組織)の間に入って、情報の収集・整理・調整を行う」というエージェント機能は、人手不足が深刻な日本において強力な武器となります。

例えば、損害保険会社の社内業務において、膨大な事故報告書の内容をAIが読み取り、過去の支払い基準と照らし合わせて査定案を作成するプロセスは、法的に問題なく導入可能です。また、一般企業の法務部門において、秘密保持契約(NDA)などの定型的な契約書の条項チェックを行い、相手方への修正案を自動生成する(最終確認は人間が行う)フローも、すでに実用化が進んでいます。重要なのは、「最終的な意思決定権限」を人間が保持しつつ、その手前の煩雑な調整・収集業務をAIエージェントにオフロードするという設計です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のMightyの事例から、日本の経営層やAI担当者が学ぶべきポイントは以下の通りです。

1. 「エージェント化」を見据えた業務プロセスの再定義
AIを単なる「検索・要約ツール」として使うだけでなく、「タスク実行者」として位置づける視点が必要です。API連携などを通じ、AIが社内システムや外部サイトから直接情報を取得・入力できる環境を整えることで、業務効率は飛躍的に向上します。

2. 「Human-in-the-Loop」によるガバナンスの確保
法規制(特に弁護士法などの業法)やハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクを考慮し、AIが外部と交渉・合意するプロセスには必ず人間が介在する承認フロー(Human-in-the-Loop)を組み込むべきです。特に契約や金銭が絡む領域では、完全自律型ではなく「人間を強力に補佐するエージェント」という立ち位置が現実的です。

3. 領域特化型のデータ整備
Mightyが人身傷害分野に特化しているように、特定のドメイン(領域)に絞って高品質なデータとルールを学習させることで、AIの実用性は高まります。自社の強みとなる特定業務領域において、独自のエージェントを育成するという戦略が、競争優位につながるでしょう。

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